王子様とブーランジェール




バカ同士のバカ対決みたいなものが、繰り広げられていたが。

ほんの数分のやりとりではあったが。

俺にとっては、特別な日の夢心地なひとときで。

今日はいろんなことがあって疲れたけど、また明日からも頑張れるんじゃないか。

そう思えた。



誰かを好きでいるって、いいかもな…。




…しかし、夢心地で家に帰ったはいいが、そこでは先生が我が家の女たちに捕まり、理人の母・万智さんも加わって、宴が開催されていた。

先生、車だからノンアルコールなのに、酔っぱらい女たちの相手をする羽目となり…ごめんね。







…しかし、騒動が大きくなるのは、間もなく。







「…あれ?咲哉は?」



翌日。

いつもの朝練も終わり頃ではあるが、いつも一緒にいる友人の姿がないことに、気が付いた。

咲哉は朝練をサボるようなヤツではない。

ふと、気が付いてしまったら、いないのが違和感で仕方なくて、思わず口に出してしまった。

すると、言われてみれば…と、言わんばかりに周りにいる同学年の部員が次々と気が付き始めた。

「…そういや、今日見てねえな」

「誰か聞いてる?」

「いや…あゆりは知ってるんじゃね?あゆり同中だろ?…おーい!あゆり!」

翔はちょっと離れたところにいるあゆりのところへ行ってしまった。



「はい!終わりー!撤収ーっ!」



すると、キャプテンの撤収コールがかかり、即座に部員全員片付けモードに取り掛かる。

朝練終わっちまったぞ?咲哉、どうしたんだ?

全員で一斉に道具に手をかけて倉庫に運ぶ中、あゆりと翔が話をしながら片付けをしている。

「…は?寝坊じゃなくて?」

「うん、普通に起きてたみたいだけど…」

「…どうしたんだ?」

「あ、夏輝」

思わず二人の話に入り込んでしまった。



「…なんかね、いつもの時間に地下鉄のホームにいなかったから、寝坊してるのかなって電話したんだけど」

あゆりと咲哉は同中で、使う地下鉄の駅が一緒であり。

朝練はだいたい一緒に来ることが多い。

いつもいるはずのヤツがいなくて、あゆりも違和感だったらしい。

「電話に出たのか?」

「うん、普通に起きてた。でも、ちょっと用事があるから朝練は休むって。学校は普通に来るみたいだけど」

「ふーん…」

朝っぱらから何の用事?

犬の散歩しか思い付かない。



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