王子様とブーランジェール
話を聞くと。
その男子生徒は三年で、昨日、寄り道をして夜の9時頃に地下鉄の二十四軒駅を降りた後に路地裏に連れていかれて、ちょい悪そうな私服の連中に、ボコボコにされたという。
そして、『よくわかんねえけどよ?これ、渡しとけってさ?』と、ボコられた後にその紙切れを渡された。
昨日で一気に2件…!
しかし、驚くのはまだ早い。
「竜堂、いる?」
「竜堂くんに話あるんだけど…」
「ちょっと、竜堂呼んでほしいんだけど」
授業の合間の10分しかない休憩時間毎に、どんどんボコ顔の生徒がやってくるやってくる。
授業終了毎に、ことごとく現れ、その都度話を聞いていると、休む間もない。
そんな感じで、昼休みに入る頃には、その《ミスター出てこいや!》の紙切れは山のようになっていた。
しめて、12件…!
何だこれは…!
俺の机の上には、本日頂戴したその二つ折りの紙が山のように重なっている。
咲哉の件と合わせて、本日13件。
今までの分も合わせると、総合17件…!
「女子の次は男子?老若男女に愛されるミスターだね」
そう言いながら、理人はその紙を一枚手にとって読んでいる。
「一枚一枚、やられた日にちとか名前とか場所記入してんの?マメだね。相変わらず字綺麗だな」
「………」
理人、冗談を言っている場合じゃねえぞ…。
これは、緊急事態だ。
被害者が一気に増えた…!
「これ、やられ過ぎじゃね…?」
事情を知っている陣太は、絶句している。
その横では、咲哉は、理人同様一枚ずつその紙を開いて読んでいた。
「まず、どこの誰だかわからないと話にならねえよ。ただの嫌がらせなのか、夏輝に恨み持ってんのかそこすらわからねえし」
そうだ。
まず、こんなことを仕掛けてくるヤツ、敵の正体が掴めない。
「うひゃー!ラブレターすごいねー!」
松嶋が、理人と咲哉の間に割って入って覗いてきた。
その後ろには、結果にコミットした桃李もいる。
って、おまえら、相変わらず仲良しか。
こんな状況にも関わらず、嫉妬でイラッとさせられてしまうのが切ない。
しかし、悠長なことを言ってられなくなった。
俺のせいで、こんなにも被害者が。
痛い思いしているヤツがこんなにもいる。
俺が、何をどうすれば。
この事件は治まるのか。
わっかんねえ…。
マジで参るわ。