王子様とブーランジェール
「…あ、お疲れさまです」
「竜堂、久しぶりだな」
5時限目は移動教室で、授業も終わり、自分の教室に戻る際に夏休み前以来会っていなかった人と、偶然出くわす。
目が合ってしまったので、頭を下げて挨拶すると向こうから寄ってきた。
ツンとしたクールな雰囲気の眼鏡の先輩。
生徒会の書記、2年の二村さんだ。
「最近はどうだ?…って、言うまでもないか。昨日は大変そうだったな」
「あ、はい…ご迷惑おかけしてすみません」
昨日、とは。
あの女子軍団の長蛇の列のことだよな。
どこかで見てたのか…。
「迷惑、には入らない程度だな。先代ミスターのファンに比べたら。静かに列になっているなんて、随分お行儀の良いファンじゃないか」
「はぁ…」
お行儀の良い、ねぇ…?
小笠原麗華と愉快な仲間達にお会いしたら、恐らく卒倒しますよ?ガス室の存在知ったら、そんなクールではいられなくなりますよ?
苦笑いが出そうだ。
「これからも迷惑かけないようにしていきたいと思いますんで、すみませんが、よろしくお願いします…では」
「…あ、待て」
そんなに時間もないので、挨拶をして立ち去ろうとしたが、今一度、引き留められる。
「…時に、竜堂。最近変わりはないか?」
「…え?」
それ、さっきも聞いていたよな?
ドキッとしたのは言うまでもない。
変わりは…おもいっきりあるからだ。
しかし、この話を彼にしても良いのかどうか、判断に困る。
『君がミスターであることで困ったことがあれば、生徒会に相談に来てくれれば、対応出来ることを助言させてもらう』
確かに。困ってるといっちゃ、困ってるんだけど。
果たしてこれが、その二村さんが言う困ったことに当てはまるのかどうか。
判断が難しい。
少し考えてはみたが。
「…いえ、特に。では」
とりあえず、何も話さずに去ることにした。
一瞬、気付かれているのかと思って、ビックリしたが。
関係ない人を巻き込んで、騒ぎを大きくしても。
ましてや、生徒会だぞ?
学校サイドに知られるとなれば、エライことになりそうだ。
ヘタに大事には出来ない。
それは、やられた被害者の男子生徒のためでもある。
まずは、自分なりに事の発端と犯人を探していくしかないのだ。
って、俺のところにケンカ売りに来てくれりゃ、解りやすいのに。
しかし、そんな真っ向勝負せずに、汚いやり方で精神的に追い詰めていくなんざ。
許されないわ…!