王子様とブーランジェール
「そういや、今日慎吾呼んだんじゃなかったっけ?どうした?」
シャトーブリアンの回は終わり。
網の上では牛タンを焼いていた頃、理人がふと呟いた。
…って、マジ?初耳だぞ!
松嶋を呼んでいたとは!
なぜ、松嶋!
…とは、言うもの。
ここにいる俺以外の三人は、松嶋とはそこそこ仲が良い。
俺も何となく一緒にはいるが…桃李と仲良しなのがネックになっていて、まだ心を開ききれてなく、ちょっと距離を置いている感がある。
まだまだ嫉妬の対象となってるのは、言うまでもない。
「あぁー、慎吾ねぇ…」
咲哉がちょっと言いづらそうにしていたが、「ははっ」と笑った後に喋り始める。
「慎吾、今、精神的監禁状態らしい」
「…はぁ?」
何だその想定の範囲外なワードは。謎めいてる。
すると、陣太は事情をわかってるのか、「あ、あぁー」と思い出したように声をあげた。
「何だそれ。夏休み終わったのにまだ続いてんのか。ホントしつこくされてんなー?相手は美少女・藤ノ宮律子だけど。羨ましい」
「藤ノ宮?どういうこと?」
「あ、夏輝と理人は知らないか」
確かに。藤ノ宮は、恐らく松嶋のことを大好きだろう。
それは学祭の一件で明らかだ。
習い事が一緒だった幼なじみと言っていた。
それが、精神的監禁?
しかし、咲哉が口にした話は。
想定の範囲外もいいところで、驚きの連続だった。
「慎吾あいつ、柳川とヤッてんの、藤ノ宮にバレたのよ」
途端に、飲んでいたお茶をブーッ!と吹き出してしまった。
それは気管に入ってしまい、しばらくゴホゴホとムセる。
「…は、はぁっ?!」
松嶋が…柳川と?!
それは、どういう…聞くまでもないか。
松嶋と柳川、二人はそういう関係…!
「つ、付き合ってんの?」
「いや。付き合ってない。だから問題なのよ」
「つ、付き合ってないぃっ?!」
「そう。セフレというやつだな」
「セフレ!」
セフレ…高校生の身分で、信じられん!!
「夏輝、今『信じられん!』とか思っただろ?夏輝にだっていたじゃん。そんなセリフ、言わせないよ?」
理人がチベットスナギツネのような顔で俺を見ている。
「あ、あれは…!」
「体だけの関係、それがセフレって言うんだよ?中学時代、いっぱいいたよねー?…夏輝様、硬派ぶらないで下さいませ!」
「お、おまえだっているじゃねえかよ!」
「俺は否定しないしー?慎吾と柳川の関係も『信じられん!』とか思わないー」
「そこ、二人。ケンカはおやめなさい」