王子様とブーランジェール
ミスターは社会人なのか。
だなんて、軽く聞き流しながら、目の前のアップルパイを食べ続ける。
先程より、このアップルパイをやっつけ始めたが。
う、うまい。
いつものパンとは違って、これはこれでアリだ。
パイ生地は元々好きだから、この食感入っていける。
見た目ほど、中のリンゴがまだ熱くて、下をヤケドしそうになった。
シナモン、いい仕事してんな。香りが良い。
俺ははっきり言って、生クリームは好きじゃない。
だから、スイーツ系は避けていたんだけど。
このスイーツはいける。カスタードクリームいける。
まさに、新境地開拓だ。
今度買おう。
そんなアップルパイに舌鼓して、油断していた。
「…ヘイ!竜堂!」
名前を呼ばれて、反射で顔を上げる。
同時に何かが来る殺気を感じて、思わず顔を左に避けた。
雑になり、反応しきれなかったが。
と、同時に右頬とサイドの髪に、金属のような硬いものが瞬時にかすめる。
えっ…!
そのまま後ろの壁にバン!と音が聞こえた。
何かがぶつかったような音だ。
な、何だ?
俺の髪に何が擦った…。
しかも、擦れた瞬間、ビュン!って音がしたぞ…?
視線のその先には、悪そうな笑みを浮かべた狭山が。
恐る恐る後方を確認する。
真後ろの壁には、フォークが刺さっている。
まだ横に小刻みに揺れていた。
フォーク…飛んできた。
壁に突き刺さってる…。
「おっ。100点」
奈緒美が手を叩いて爆笑して喜んでいる。
「ちっ。かわすなバカめ!」
狭山は眉間にシワを寄せる。
なっ、何だと!
「って、フォーク投げてくんじゃねえ!何のつもりだ!」
「竜堂のお素敵なお顔にフォーク刺してやろうと思っただけだ」
「いったい何なんだ!油断も隙もあったもんじゃねえ!」
狭山は悪そうな顔のまま、クックッと笑っている。
フォークで顔を刺す?
どんな発想してるんだ!
殺し屋じゃあるまいし!
俺に対して恨みつらみあんのかもしれねえけど、白昼堂々狙ってんじゃねえよ!
沸々と怒りがこみ上げてきた俺に。
狭山は手招きをする。
「ヘイカモン。面白いものを見せてやる」
そして、隣にいる菜月を指差していた。
隣の菜月はいつの間にかパソコンをを開いており、キーボードを打つ音が聞こえる。
菜月はパソコンの画面を見つめ続けながらも、ウフッと笑っていた。