王子様とブーランジェール
手に取って、画面を確認する。
…陣太からだ。
『今終わったぞー』
おいおい。まだやってたのか。
もう8時になるぞ。
お疲れと返信しようとすると、次の着信が入ってくる。
『今から神田送ってくけど、おまえも来ない?パン食べさせてくれるって』
おまえも来い?
腹減りは解消したし。
今、犬とアロマでリフレッシュ中だ。
もう、ええわ。
(………)
それに、さっき桃李が声を掛けてくれたのに、おもいっきり聞こえないフリして去ったことに、少しばかりか罪悪感を感じている。
あっちは大して気にもしてないだろうが、俺的には気まずい。
『さっきメシ食ったから俺はいいわ。しっかり家まで送ってやってくれ。頼むわ』
参加しない方向で、返信する。
しかし、すかさずそのまた返信が来た。
『そんなこと言わないで来いよー』
『俺と神田、二人きりだぞー?』
『後々おまえに殺されても困る』
次々と返信が…!
なぜ、そんなに俺に来て欲しいんだ。
二人で仲良くパン食えばいいだろ。
それに、陣太には他に好きな女子がいるのを俺は知っているので、桃李とは過ちが起きないことはわかっているし。
松嶋とは違ってむしろ信頼しているので、殺すだなんてことはまずない。
咲哉の件があるからビビってんのか?…俺達、友達だよね?ホント。
俺からの反応がないからか、陣太からの返信はまだ続いている。
こいつ、案外しつこいな。
『神田が夏輝元気ないって心配してるぞ?』
『うちのパン食べたら元気になるんだって言ってるぞ?』
それは誠か。
桃李が?俺を?心配してる?
信憑性ないな…。
桃李が他人を、ましてや俺を心配するほどの器量なんてあるもんか。
自分のことで手一杯な女だぞ?
…だけど。
『夏輝…どうしたの?』
『恐い顔していたから…』
俺の最近の異変には、気付いているのかもしれない。
普段バカなのに、何でこういうことには気付くんだ?
気付いてくれなくてもいいのに。
…これは、姿を見せて何もなかったかのようなフリをして、何もないアピールをしなければならないかもしれない。
余計な心配かけたくない。
陣太に返信したのち、ピンクを下ろして席を立つ。
『わかった。今から出る』
『パンダフルで待ち合わせな』
ホント、余計な心配しなくていいんだよ。