王子様とブーランジェール
マンションの駐車場に立っている防風林が見えてくると、集団の人間の気配と、男の飛び交う怒声が聞こえてくる。
予想が現実となってしまったかもしれないと思うと、鳥肌が立ってきた。
『…ちっ!何なんだこいつは!邪魔くせえ!』
『や、やめろ!何で戻ってきたんだ!』
『ふざけてんのかこいつはぁぁっ!』
…陣太の声だ!
やはり、遭遇していたか!
じゃあ、一緒にいる桃李も…!
防風林が立ち並ぶ道を走り抜け、視界が開ける空き地に出る。
ここからまだ、少し離れている場所で、複数の人影が動いてるのが見えた。
3、4人という人数ではない。もっといる。
「待て!待てよ!…神田、離れて逃げろ!何してんだ!…いや、おい、おまえらも離せって!!」
声の方向では、ガラの悪そうな3人の男子高生と体を捕まれては振り払ってと揉み合っている陣太の姿が。
やはり!
よりにもよって、俺の身内に…何してくれてんだ!
しかし、事態は想像とは少しばかりか違っていた。
「な、何だ何だこの女は!」
「離れろって…邪魔くせえ!!」
「や、やめて!やめて!お、お願いだからやめて下さい!」
目を疑った。
陣太たちのいる場所に向かい合わせるように、同じくガラの悪い男子高生が3人ぐらいいて、そこでも何やら揉み合っているようだ。
その中の一人に、ロン毛にニット帽を被っており、鉄パイプという凶器を持った、これまたガラの悪そうな男子高生がいたが。
そのニット帽男の鉄パイプを持っている腕に、必死でぶら下がっている、桃李の姿が。
…え?桃李が?
な、何で?
「やめて!横川くんを殴らないで下さい!お願い!お願いします!」
「な、何だおまえは!急に飛び付いて来やがって!」
何をやってるんだあいつは!
あんないかにも不良というガラの悪いナリをした連中から、逃げるは愚か、自ら歯向かって行くとは!
今までの桃李からは、考えられない。
桃李、おかしくなったのか?
「…離せって!この女!」
「は、は、離しません!」
「殺すぞコラァ!」
「こ、殺されません!」
ニット帽男は、桃李がぶら下がっている腕を何度も大きく振り払おうとする。
しかし、桃李もしっかりしがみついており、なかなか離れずにいるようだ。
というか、鉄パイプを持っている手だぞ?!
そこから、離れろ!