王子様とブーランジェール




危ない…!



「桃李、離れろ!」



叫び掛けて、桃李をそこから引き離すべく、一目散に走り寄る。

しかし、俺の声が耳に届かないのか、こっちには見向きもせず、そこから動かず。

次第にニット帽男と揉み合うカタチになっていた。



頼むから…頼むから逃げてくれって!

桃李!



「…おまえ、このっ!!」



ニット帽男が一段と大きく腕を振って、桃李を払いのける。

だが、その弾みで、男の持っていた鉄パイプの端が、ガスッと大きな音をたてる。

「あっ…!」

その音と共に、桃李は男の腕から離れ、吹っ飛ばされて地面に滑り込んでいった。

「お、おい!女相手に何やってんだよ!」

仲間の男が、ニット帽男と地に倒れこんだ桃李を交互に見ている。

「う、うるせぇな!」

と、言いながらも、ニット帽の男は鉄パイプの端をちらちらと見ていた。




手を伸ばしても、届かない距離ではあったが。

ようやく姿を認識できた、目の前にいたはずなのに。



「い、痛いっ…」



地にうずくまっている桃李は、額を抱えるように押さえている。

その姿を目にして、抑えていたものが一気に膨れ上がって弾けた。



「…おまえらこのやろおおぉぉっ!!」



腹の底から叫び散らして猛ダッシュをかけていくと、連中が一気にこっちを振り返り、ギョッとした顔でこっちを見る。

「だ、誰だあいつは!」

「また違うのが来やがった!」



うるっせぇな!なんぼでも来てやるさ!

俺の大事な身内に絡みやがって!

…桃李まで巻き込んで、手を出しやがって!



とうとう、シッポを出したな。

絶対、逃がさねえ!!




更に助走をつけて、踏み込もうとした。

しかし、その時。

目の前すれすれにサッと人影が現れて、停まらざるを得ず、足を止めてしまった。

えっ…誰だ!

邪魔だ!



「それは、そう使うんじゃないでしょ」



聞き慣れた声を発する俺より背の低い人影は、俺に背を向けたまま、ニット帽男の持っている鉄パイプの先をいつの間にか掴んでいた。

そして、自分のもとに引っ張り寄せると同時に、男の腹にドカッと蹴りを入れている。

簡単に鉄パイプを奪い取り、綺麗に弧を描いて振り回してその男の腹に一撃喰らわせていた。



「…鉄パイプはこう使うんでしょ」



そう冷たく言い放って、うめき声をあげてうずくまっているニット帽男の様子をただ見ていた。

松嶋…!



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