王子様とブーランジェール
「おまえ!急にやってきて何なんだ!」
「俺達とやろうってのか?!あぁ?」
味方がやられたと理解した連中は、鉄パイプを手にした松嶋を取り囲むように前に出てくる。
しかし、松嶋はビビることはなく、平然としていた。
「…女に手を出してんじゃねえよ」
平然というか…冷たく睨み返している。
話し方も、冷たく尖っていて。
それは、俺達見ているいつものお調子者の松嶋ではなく。
「…桃李、遅れてすまん。もう少し早く気付ければよかった」
右手で握っていた鉄パイプを、今一度握り直す。
そして、こっちをチラッと見た。
「ダンナ、桃李を頼むよ」
同時に持っている鉄パイプを振り上げる。
前置きもない一撃は、目の前にいる男の首の付け根に降り落ち、鈍い音を立てた。
そして、次の一手が脇腹に入る。
瞬く間もないスピードで、2発攻撃を受けた男はあっという間に地に崩れた。
「…はぁっ?!やんのかコラァ!」
男の一人が、いきり立って松嶋に拳を振りかざすが、その拳の手首を鉄パイプで振り払われ、勢いよく振り回した鉄パイプが腹のど真ん中に命中する。
直ぐ様振り返り、背後にいた男の胸元を鉄パイプで突き、バランスを崩した隙を狙って、脇腹を鉄パイプで殴り付けた。
松嶋の周りにいた奴らは全員、地に倒れていた。
ま、松嶋?!瞬殺?
強い…!
正確に急所を突いて、無駄のない攻撃、本当に一撃必殺の侍のようだ。
まるで、剣道でもやっていたかのような…。
周りの奴らが全員地に倒れたところで、今度は陣太を取り囲んでいる連中の方へと向かう。
「…陣太を離せ!」
松嶋すでに鉄パイプを振り上げており、有無を言わさず連中の一人の背中を叩き付ける。
うめき声をあげて倒れていく仲間を見て、他の二人はすでに陣太から手を離しており、後退りをしていた。
「お、おまえ…紋中の四天王だろ…て、鉄パイプ侍…」
「な、何で?星天にいるんだ?!」
「頭の良いヤンキーだっているんだよ。それにその呼び方だせぇからやめろや!」
マジか…。
『でも、確かにアイツだ。あの左耳の三連ピアス。鉄パイプを慣れた手つきで振り回して、一撃必殺みたいな…』
佑馬と快斗の言っていたことは、本当だったのか。
紋中のそうめんだか、凶悪ヤンキーだという話は。
松嶋は、凶悪ヤンキーだったのか…!
松嶋のケンカっぷりに目を奪われていて、ハッと我に返る。
そうだ。桃李が…!
「桃李!」
桃李はその場でうずくまったままでいた。