王子様とブーランジェール
面白いもの?
いったい何なんだろうか。
席を立ち、菜月と狭山の方へと赴く。
想像がつかず、特に何の警戒もないまま、パソコンを覗きこんだ。
狭山が横で「クックッバカめ…」と、悪そうに呟いている。
しかし。
そのパソコンの画面を目にした俺は。
一気に頭のてっぺんが熱くなり、何かが吹き出しそうな感覚を覚えた。
「な、何だこれは!」
パソコンの画面には。
ある動画が。
ラブホテルの前には、男女二人。
しかし、中には入らないで、正面でグタグダとやっている様子が。
『…ほら!竜堂くん、もうすぐそこだよ!立って!』
『あ、嵐しゃん…ぐ、具合悪いぃ…』
ラブホテルを目の前にして、地にうずくまる男。
それの手を引っ張る女。
これ…。
俺と嵐さん…。
酒に潰れて動けなくなっている俺を、嵐さんが手を引っ張ったり体を揺すったりして、何とか起こそうとしている様子だ。
な、なぜ!
なぜこんな動画が!
記憶はまだらに残っているが、確かにこういうことはあったかも…でもなぜ!
動画はまだ続いていた。
『…あーっ!もう!何でこんなになるまで飲ませたのよ大河原ぁーっ!あのイボゴリラぁっ!』
嵐さんが俺の腕を引っ張りながら、シャウトした。
しかし、ハッと気付いて、俺の背中をさすっている。
『あ、ごめんね竜堂くーん。私、そんなキャラじゃないのよ?ごめんねごめんねー』
そして、俺を背中に担いでおぶって、ゆっくり歩き出す。
自分より体重の重い男を背負うその歩みはゆっくりで…嵐さんの足、ガクガク震えてる。
そのまま、ラブホテルへと入っていったのである…。
動画はそこで終了。
な、何だこれは…!
すると、狭山が腹を抱えて笑いだした。
「何だ何だ竜堂!おまえ、嵐に酔い潰されておぶられてラブホテルに行ったのかよー!おんぶ!おんぶ!…赤ん坊プレイかバカめ!」
「な、何でこんな動画があるんだよ!」
思わずカッとなって、傍にいた狭山に怒鳴り付ける。
「私達の巡回中の仲間がな?偶然、嵐が男をラブホテルに連れ込もうとしているのを発見して、私に連絡してきたんだよ。で、面白いから動画を撮っとけ!って、後で見てみたら、おまえと嵐かよ!って感じでよー!…飲んだら乗るな!バカめ!」
菜月は冷静に『背中に?』と、突っ込んでいた。
すると、一緒に動画を見ていた連中が、笑いだした。
「っていうか、『嵐、酔い潰れた男を背負って引きずってでもラブホテルに行きたい図』じゃね?」
「いえいえ、『男をおんぶしてまで足を震わせてでも、そこまでしてもイケメンとヤリたい図』ですよ奈緒美さん」
「いいえ。『酔い潰れた男の前でもキャラを気にして取り繕ってるけど、それが全て無駄なのがわかってない、でも執念で男をラブホテルに連れ込んだ図』じゃないかな」
奈緒美と美梨也、菜月は顔を見合わせたのち、大爆笑している。
「嵐バカくさー!」
「そこまでやるー?まゆりは全然無理ー!」
「夏輝、背あんのに、よくおぶれたなー!」
「エッチへの執念、恐っ!」
「嵐は色情魔だからな?男が欲しくて欲しくて仕方ないのだバカめ!」
もちろん、まゆマネも潤さんも手を叩いて笑っている。
色情魔…。
理人もその動画を見ていたのか、顔を伏せて呟きながら、笑いを堪えている。
「あり得ねえあり得ねえ…『嵐しゃん』とか噛んでるし…」
…俺もあり得ねえと思うわ!
優里マネも最初は笑っていたが、俺と目が合うと『竜堂くん、放課後ね…』と、シラッとした目で見られた。
また、練習前にお説教だ…!