王子様とブーランジェール
「おい、全員こっちに来い。下手な真似したら、殺すからな?」
鉄パイプを肩に担いだ松嶋は、ボコボコになった男子高生を顎で指示して誘導させている。
松嶋の強さを前に戦意喪失したのか、奴らはお利口さんに言うことを聞いており、松嶋を見ながら後退りするように一ヶ所に固まり座らされた。
松嶋…表情がいつもと違う。
いつものおちゃらけてバカを言っている松嶋ではない。
目付きが鋭くて、冷たくて。
本当に容赦なく人を殺しそうな…。
「…ダンナ」
俺の方を向いて、ちょいちょいと手招きをしている。
いつの間にか表情から鋭い目付きが消えていた。
「あ?」
「来て来て」
「あ、あぁ…」
立ち上がって、松嶋の横に並ぶ。
松嶋に座らされた男子高生たちを上から見下ろすカタチとなった。
すると、松嶋が鉄パイプをカラカラと引きずって、前に出る。
奴らは「ひぃぃっ!」と、ビビりまくっていた。
紋中四天王とやらは、そんなに恐れられてるのか。
「例のモノ…持ってんだろ?」
松嶋は冷たく言葉を投げ掛ける。
目付きに鋭さが戻ってきている。
「例のモノ…?」
「出せよ!…紙切れ、あんだろ?あぁ?!」
男の返答に被せるように、松嶋が声を荒げる。
すると、男の一人が慌ててポケットをまさぐっている。
「は、は、はい!…こ、これです!」
差し出された二つ折りの紙切れを、松嶋は乱暴に奪い取る。
中を開いて確認したのち、「はい」と俺に渡してきた。
手渡された紙切れを開く。
これは、もしや…。
中には想像通り、やはり《ミスター出てこいや!》と書かれていた。
座らされた男子生徒連中を、二度見してしまう。
こいつらが…!
「ようやく捕まえましたな?」
松嶋が、肘でトンとどついてくる。
ニッと笑っていた。
そうだ。
ようやく捕まえた。
この一連の襲撃事件の加害者を。
犯人の手掛かりを…!