王子様とブーランジェール
「…あ、リッフィー来たの?」
「来たよ」
いつの間にか登場していた理人と、何もなかったかのように普通に話をしている。
そんな松嶋の表情は、教室にいるいつもの松嶋とは変わりがない様子だ。
さっきの豹変ぶりは、いったい何だったんだ。
しかし、松嶋が本当に凶悪ヤンキーだったとは、信じられない。
あの鉄パイプ捌きも、ただ振り回しているわけではなく。
あれはまさしく『剣技』だ。
鉄パイプ侍…。
「…さて、話を聞こうじゃないか」
そう言って、松嶋は再びボロボロの姿で一ヶ所に座らせてある不良男子生徒たちの元へ赴く。
カラカラと音を立てて引きずっていた鉄パイプを、肩に担いだ。
松嶋を前に、不良男子生徒たちはビビっており、座ったまま後退りしそうになっているヤツもいた。
「…おまえら、うちのミスターに何の用だ?」
松嶋は、声を落として率直に問う。
「…は?」
「ミスター?…何?」
しかし、その反応は意外なもので。
そう問われたヤツらはきょとんとしている。
何?って…!
「とぼけてんじゃねえよ!おまえらがミスターを挑発してうちの生徒襲ってんの、こっちはわかってんだよ!」
「…ひっ!」
一層声を荒げる松嶋に、ヤツらは更に萎縮していた。
しかし、身を守るように次々と言い訳にを始めている。
「し、知らない!知らないんだ!ミスターなんて!」
「…知らない?…じゃあ、おまえらの持ってきたあの紙は何なんだ?!ミスター出てこいや!って、ケンカ売ってんだろうがぁっ!」
「あ、あれはただその襲った後に渡しとけって言われただけで…!」
「俺達はただ『今、面白いゲームをやっている』って言われて、星天の男子を襲えって言われて…!」
「だから、ミスターとか何とかは知らない!」
知らない…?
面白いゲーム…?
一旦落ち着いていた怒りが、ここぞとばかりに再燃して膨れ上がる。
「…そんな理由で、うちの生徒を襲っていたのか?!…ふざけんじゃねえよおまえらぁっ!!」
怒りに任せて、その一人に掴みかかる。
「夏輝、待て!落ち着け!」
そこへすかさず理人が間に入る。
理人のデカい体が目の前に入ってきたため、相手が見えなくなり思わず手を離してしまった。
「うるっせぇな!邪魔すんな!」
「…何か違う。ちょっと変だ。咲哉の話と違う」
「はぁっ?!」
「咲哉が遭遇した連中は夏輝のことを『ぶっ殺してやる』って言ってたのに、こいつらはミスターそのものをわかっていない…」