王子様とブーランジェール
「だから何なんだよ!何がどうであれ、こいつらは陣太を襲って桃李にケガをさせたんだ!違うも何もあるか!」
「そうだけど、こいつらからはもう少し話を聞いた方が良い。夏輝がボコボコにしたら、口が聞けなくなる。ややこしい。こじれる。めんどくさい。やめろ」
「…あぁっ?!何だと!」
「そこの二人、ケンカはやめい!おまえらがモメてどうすんの…」
ちっ…。
確かに。
咲哉と遭遇した連中は、俺のことを『すけこましヤロー』とか『ぶっ殺してやる』とか言ってたっけ。
だけど、こいつらは俺のこと…ミスターそのものをわかっていない様子だ。
面白いゲームって。
どういうことなんだ?
すると、傍にある何もない空き地に一台の車が入ってきた。
黒いセダンの高級車だ。
停止した途端、助手席と後部座席のドアが一気に開いた。
「…あ、来た」
松嶋がそう呟くと同時に、車からバラバラと姿を現す。
しかし、その姿が誰だか確認した時、ため息が出た。
なぜだ。なぜ、こいつらが来る。
「クックッ…ご苦労、松嶋」
出た。もうお馴染みとなってしまった、その悪魔のような笑い方。
狭山だ…。
後ろには、お仲間である菜月がいる。
「お疲れ様です、狭山さん」
狭山を前に、松嶋は頭を軽く下げている。
だが、悪魔の笑いはまだ続いていた。
「クックッ…松嶋、仕事が早いな?さすが紋中のヤンキー」
「たまたま遭遇しただけですってば。それに律子と一緒にいただなんて、すごい偶然ですね」
「クックッ…家の近くに新しいオシャレなカフェが出来てな?四人でお茶をしていたのだ。ディナーを食べ、帰ろうとしていたところ、おまえから電話が来てな?タイムリーツーベースだ」
「何だかよくわかりませんけど」
二人で何やら談笑しているようですが。
狭山が現れたこの状況を理解出来ない俺は、二人の会話に割って入る。
「…松嶋、どういうことだ?何で狭山を呼んだ!」
「あ、それは…」
「たわけ!私が頼んだのだ!」
狭山が、ずいっと俺の前に出てくる。
不敵な瞳で睨みつけるように俺を見上げていた。
「は?何でおまえが…!」
「…バカめ!この竜堂!…このようなナメた真似の事件、放っておきやがって!これではナメられっぱなしではないか!うちの高校と、ミスターが!」
「は、はぁっ?!」
別に放っておいたワケでは…!