王子様とブーランジェール
それに、ナメられっぱなしで、黙っていたワケではない!
敵が見えなくて、特定出来ず。
単に、どうしていいか…成す術がわからなかっただけだ。
「…ナツキくん」
狭山の後ろから、パソコンを片手に抱えた菜月が登場する。
更に後ろにはケータイをいじってフラフラと歩いている美梨也もいた。
「今回のこういう事件を抱えて黙ってもらっては困りますよ?明らかにナツキくんが狙われている事件じゃないですか」
「は?…困るって?」
俺が狙われている?…いやいや、狙われてるのはうちの男子生徒だろ?
それに、黙ってもらっては困りますって、何で菜月たちが困るんだ?
「…困るってどういうこと?」
菜月の言っていることが良く理解できず、逆に聞き返してしまう。
すると、菜月は目を見開いた。
「…あれ?エリから聞いていないんですか?」
「何を?」
「私達が課せられているミッションのことを…」
「み、ミッション?」
ミッション?何だそれは。指令?作戦?
洋モノのドラマ24時間みたいな。
「…エリ!ちょっと!」
普段物静かな菜月が、珍しく声を張り上げる。
狭山も少しビクッとしていた。
「な、何だおまえ急に」
「ちゃんとナツキくんに説明したの?私達の、先代から課せられたミッションのことを!」
「…あ、そのことか。あぁ、言った。言った言った。終業式の日に早速言ったぞ?おまえらがうるさいからなぁ?あぁ?」
「どのように伝えたの?」
「おう。そりゃ、あれだ。私ら残党は、先代ミスターから次のミスターが困っていたら助けてあげなさいよ的なことを言われておるので、遠慮なく私達に頼るが良いってな?…なぁ?竜堂、私言ったよな?あぁ?」
「あ、あぁ…」
確かに。そんなことは言われていたかもしれない。
近所のおばちゃんからのお願いみたいな。
しかし、それは菜月のお怒りを誘った。
「…全っ然、伝わってません!この言葉足らず!」
「なぬっ!」
「そんなんじゃ飲み屋にいる酔っ払ったおじさんが調子に乗って言うセリフと同じじゃない!先代から仰せつかった言葉はそんなんじゃありません!」
「はいはいはーい。すみませんだバカめ!」
そう言って、狭山は逃げるようにその場を離れる。
松嶋を指で招いて、座らせっぱなしの不良男子の元へ赴いた。
菜月に怒られて、バツが悪くなったのか。