王子様とブーランジェール
「…ナツキくん、ちょっとお話よろしいですか」
男子生徒の元へと向かう狭山と松嶋の様子を見守っていると、菜月がこっちにやってきた。
後ろには棒付きキャンディを舐めている美梨也もいる。
「…え、何」
とは言えども。
話の内容は、何となく察しがついている。
さっき口にしていた『先代ミスターからのミッション』ということだろうか。
狭山が近所のおばちゃんのノリで伝えたという、あの話。
こっちの反応を待たず、菜月は話始める。
「…私達先代ミスターのファンクラブは、この春、先代がご卒業される際に、とある一つのミッションを授かっております」
「は?…ミッション?」
菜月の後ろでは、美梨也がうんうんと頷いている。
キャンディをくわえながらと、緊張感が全くない様子ではあるが。
「『次代のミスターを守れ』と…」
「………」
思わず、絶句する。
何だ何だ。
お守りしろと?
随分と大袈裟だな。
思ったことを、そっくりそのまま返してしまう。
「何だそれは。守れって随分大袈裟だな。たかがミスコンだぞ?」
「されどミスコン、ですよ?ナツキくん」
「されど?」
「この星天高校のミスターコンテストは、もう20年続いているという歴史あるイベントですが、それは『校内のアイドル』ですとか『学校の顔』というその知名度は、校内もしくはその近隣までに留まっていました。…先代がミスターに就任するまでは」
「ふーん…」
「ですが、私達の主、先代がミスターに就任すると、あまりのお美しさゆえに、その知名度は近隣どころか、市内、最終的には北海道内までに行き渡り、道内各地でファンクラブが発足されることに。ミスターはどんどん注目される存在となったのです」
思わず吹き出しそうになった。
お美しさゆえに…?
道内各地でファンクラブ?
どれ程本気すぎるんだあんた達。
「それ故に、地方のファンクラブがミスターを拉致しようとつけ狙ったり、それを妬む輩がミスターに危害を加えようとしたり。いろいろとトラブルの絶えない日々でした。ミスターが拐われたとなれば、ミスターの恋人と共に私達で救出しに行き、狙われたとなれば、お守りするために先手を打って相手を叩き潰す、ファン同士の抗争も絶えませんでした」
先手を打って叩き潰す…が、抗争の原因じゃありませんか?!