王子様とブーランジェール
「しかし、先代ミスターはこの春にご卒業され、学校を去ることになりましたが、先代としては『自分がこのミスター星天というブランドを激化させてしまった』という責任を感じておられたようです。今年のミスコン、世代交代としてかなり注目されていたんですよ?」
知るか。
ミスコンというイベント自体、入学してから知ったというのに。
「もしかしたら、自分がこのミスコンを激化させてしまったことで、次代のミスターも自分と同じ目に合うかもしれない。普通の高校生活を送れなくなるかもしれない。辛い思いをさせてしまうかもしれない。先代は大変気にしておられました。そこで、この春にご卒業される際に、ファンクラブは解散しましたが『残党』として学校に残る立場の私達に、先代はミッションを課して行きました」
「『自分の後継者である、次代のミスターを守れ!』『ミスターであることによって、その身と心を傷付けられぬよう、笑顔を失わず高校生活を送れるよう、全力でお守りしろ!』てな」
美梨也が突然会話に入ってきて、くわえていたキャンディを天にかざして吠えた。
あの…。
その本格的なマジ加減、ドン引きだ。
で、恐らくどこかしら盛っているに違いない。
でなきゃ、この本気度、どこの世界の話なんだよ…。
「お守りしろ?…ホント大袈裟すぎんだよ。自分の身ぐらい自分で守れるわ」
そんなつもりはないのに、思わず鼻で笑ってしまった。
しかし、それに反論するかのように、菜月は目を細めて意地悪そうな顔をする。
「…あれ?でも、現にこうしてどっかの知らない誰かにケンカを売られて困っているじゃないですか?」
「そ、それは…」
タイムリーに痛いところを突いてきやがる。
何も反論出来なくなってしまった。
「先代はこういうことが起こるのではないのかと、予測していたんだと思います。だからこそ、この今こそが私達の出番です」
「…は?何言ってんだ。おまえらがこの事件を解決してくれるとでも言うのかよ」
反発したい気持ちで、何気なく口にしたそのセリフに、菜月は更に意地悪そうな笑みを浮かべる。ドヤ顔だ。
「…ナツキくん、私達の情報網と捜査力を甘く見てもらったら困りますよ?それに、もしこんな事件であなたに何かがあったら、私達は先代に顔向けが出来ません」
そう言って、菜月は歩き出す。
狭山の方へと赴いた。
狭山は、松嶋を横に置き、座らせていた不良男子から話を聞いている。
途中、「あぁ?なぜ何も知らぬ!このバカめ!」と、荒げた怒声も聞こえていた。
「…エリ、そっちはどうですか?」