王子様とブーランジェール
呼び掛けられて、狭山は不機嫌そうに振り返る。
「ちっ。こいつらはクロだけどシロだ。単に知り合いに持ち掛けられて犯行に及んだだけと見られる。こいつらの話だけでは敵には辿り着けん」
そして、今一度連中を睨み付けた。
その様子を見て、菜月は軽いため息をつく。
「…エリ、この連中からはもっとよく話を聞いて犯人を辿って行ったら良いと思います」
「あぁ、もちろんそのつもりだ。とりあえずこいつらはうちの自社ビルの地下に監禁して尋問するつもりだ。もう迎えは呼んでおる」
小笠原はガス室なら、狭山は自社ビルの地下か。
セレブってどうして恐ろしい施設を必ず持っているんだ。
監禁?…犯罪だぞ?やめい!
「…あと、ナツキくんには私の方から改めて説明しました。私達が動く理由は十分にあると思います」
「…そうか」
そして、俺の方をチラッと見た。
「エリ、ミッションスタートして下さい。犯人、大元を特定して見つけるには、よりたくさんの情報と分析が必要です」
「兵隊を動かせってか。わかった…美梨也!」
「ほいっ!」
「残党全員に『ミッションスタート』と一斉送信しろ。あと、奈緒美と潤を今すぐここに呼べ」
「あいあいさー!」
「エリ、あと顧問に連絡して下さい」
「…はぁっ?!なぜあやつに!」
「今回の件は敵となる対象が多すぎます。こんなに敵が点在している状況じゃ主犯に辿り着くのが遅くなります。顧問に助言を頂いて対抗手段を考えてもらうのがベターかと」
「だからってなぁ?おまえ…」
「私達のモットーは『絶好のタイミングで相手を徹底的に叩き潰す』でしょ?」
「…わかったわかった!電話する!…ったく、バカめ!」
狭山は半ばやけくそに返答して、電話をかけていた。
「…顧問?」
聞き慣れないそのワードを口にすると、美梨也が隣でキャンディを舐めながら頷いている。
「私達ファンクラブの特別名誉顧問。先代ミスターの同級生。ついでに私の兄貴の親友」
「…はぁっ?!」
「んで、狭山さんのカレシ」
「…何っ!」
驚いた。驚いたぞ。
ここで、登場する?狭山の彼氏。
金属バットの存在を消化している彼氏…!
残党の特別名誉顧問。社内恋愛みたいなもんかって。