王子様とブーランジェール
しかし、恐ろしい。
恐ろしいぞ、世の中のスマホカメラ社会。
まさかあの時の(とは言ってもあまり覚えていない)やり取りが動画に収められていたとは…!
動画を撮った…仲間って、誰!
巡回中?何のために?必要なの?
友達というよりは、組織の調査員みたいな言い方だったぞ?
お前達、何の組織?
『覚悟した方が良いと思うよ?』
さっきの潤さんのセリフ、こういうこと?!
「…ちょっと、潤さん!」
俺の動画でドッカンと盛り上がっている連中をよそに、左隣にいる潤さんにコソッと話しかける。
「これ、どういうこと?どういう仕打ち?!昨日の一件だけで、こんな仕打ちあんの?!」
「いやいやいや。昨日の一件とは別だって。それとは別に、嵐って私達の天敵なんだよねー」
「え?」
「昔、嵐とミスターが一悶着あって、ミスターを思いっきり傷つけた。しまいにはケガさせたことあんの。もうその時のエリのキレようったら…」
「え、男女問題?」
「まあそう言っちゃそうなんだけど」
嵐さんはミスターにも手を出したことがあるのか。
さすがイケメン狩り…。
で、痴話喧嘩かなんかでミスターにケガさせたんだろうか。
そんなこんなで、狭山達は嵐さんを敵視しているのか。
「これはたまたま。偶然夏輝だっただけ。面白いから?なんてー!」
そして、潤さんはまた『おんぶ!おんぶ!』と笑いだした。
ただ面白いからって…。
人に知られたくないプライベート、暴露する必要あるか?
いや、これが木元さんが言ってた『精神的抹殺』ってやつなんだろうな。
これが流出したら、『社会的抹殺』…。
俺的には、まあ…気分は良くないけど。
そんなにダメージじゃない。
嵐さん、よく俺をおんぶできたな。
ウェイトもタッパもある俺を…。
でも、もうこれは起こってしまったことだから、仕方ない。
非難を受け止めるしかないかな。
と、ちょっと開き直ってしまった。
家庭科室の端にある、流台の方を見る。
そこには、桃李が先程のお茶会の後片付け、皿洗いをしていた。
こっちの騒ぎには目もくれず。
桃李が見てないから、良しだ。
ただそれだけが気がかりだった。
こんなおんぶ動画、桃李には絶対見られたくない。
もし見られたとなれば、マジで精神的抹殺の仕打ちだ。
「実はね?まだまだあるのよ?ナツキくん?」
菜月はそう言って、パソコンのキーボードを再び打ち始めた。
少し、ほくそ笑んでいる。
…って、まだあるって、何!