王子様とブーランジェール
「ち、ちょっと待ってくれ!」
パトロールで盛り上がってるところ悪いが、ここはちょっと言わせて貰いたい。
俺が一言発すると、辺りは静かになり全員こっちを見た。
「何だ?竜堂、異存でもあるのかバカめ!」
教卓に寄りかかっている狭山が、腕を組んで俺を睨むように見ている。
「異存?…ありまくりだ!パトロールを女子がやる?人数で押すとはいえ、危険だろうが!相手は男だぞ?しかもケンカ慣れしている不良連中だ!何なら、俺が…」
この件で、男子生徒だけではなく女子生徒までもを危険な目に合わせるのに納得がいかない。
万が一、連中に出くわしたとしても、タダで済むもんか。
昨日の桃李の件が頭を過る。
これ以上、この件で誰かが傷つくのは冗談じゃない!
こいつらがやるくらいなら、俺が自ら張り込んでブッ殺してやるわ!
『夏輝?随分と優しいね?そんなにフェミニストだったっけ?』
顧問である酒屋の兄ちゃんの声が、スピーカーから低く響いている。
「フェミニスト?…そんなんじゃねえよ!女子と男じゃ力の差が…」
『夏輝、このデビル達を甘く見ない方が良いよ?』
「は?」
『何てったって、こいつらは先代ミスターのデビル達だよ?あの手この手で先代の身を死守した、悪魔達だ。不良男子高生なんて、半殺しのケチョンケチョンだよ。ね?だからおまえ達大好きだよ。面白い』
顧問のその言葉に、残党女子たちは「ありがとうございまぁーす!」と、声を揃えた。
半殺しのケチョンケチョン?
んなバカな!
「…竜堂」
「あぁ?」
狭山の睨みつけていたその目は、不敵なものに変わっていた。
「…私達に、任せろ。悪いようにはせん」
浮かべる笑みは、悪魔そのものだった。
ちっ。この調子じゃ何を言ってもダメだな。
「…わかった。じゃあ俺も一緒に」
『夏輝、それはダメだ』
「えっ!…何で!」
『夏輝自ら動いていることを奴らに気付かれたら、本戦勃発の可能性があり、情報収集にならない。夏輝はこの軍の本丸だ。おまえがやられれば、このミッションは失敗』
「本戦勃発、上等じゃねえか!」
『ダメダメ。それじゃあ絶好のタイミングで徹底的に叩き潰せないだろ?それに、サッカー部は大会本選前だから、もし公になってしまったら、部のみんなにも学校にも迷惑をかける』
ちっ。痛いところを…!