王子様とブーランジェール
それから、部活に出ることにした俺達は、出陣(…)で慌ただしくなっている家庭科室を後にする。
遅れて参加した部活は、先ほどの家庭科室とは違って、普段と何ら変わりのない光景であり、少しホッとさせられた。
しかし、事は動いており、狭山らは動いているのに、俺はここで平和に部活をやっていていいのかという後ろめたさもある。
何だかまた頭がごちゃごちゃしてきた。
一刻も早く、この事件を解決しないと…。
部活も終わり、みんなと別れて一人帰路につく。
昨日の現場となった空き地や防風林が衝立となった駐車場を横切っていった。
商店街の通りに出る。
道路を挟んで斜め向かいには、お馴染みのパンダフルが。
…この通りに沿って南の方へ行くと、通りに面した11階建てのマンションは理人んち。
そして、もうちょい奥には、酒屋がある。
…先ほど顧問として登場した、兄ちゃんの自宅だ。
俺が今立っている位置からでは、看板が豆粒に見える程度に距離がある。
恐らく。
今、家にいるんだろ?
いろいろ物申したいことやら、聞きたいこともある。
今すぐ乗り込んでやろうか。
立ち止まって、その豆粒程度の看板のある建物を見つめる。
だが、いろいろ考えた結果、今はおとなしくしておこうと思い、やめた。
再び、家に向かって歩き出す。
先ほどの残党の捜査会議で、突如顧問という肩書きで現れた、酒屋の兄ちゃん。
同じ町内会なので、普通にここら辺を歩いているとたまに見かける。
二番目の姉・冬菜の同級生で、俺の3歳上。
中学は被っておらず、小学生の時は同じ学校に通っていた時期もあったろうが、昔過ぎてあまり記憶はない。
いつも冬菜と悪いことやっては、町内会のおじさんおばさんに怒られていたなという程度。そういや、最近まで悪いことしてたな。この二人。
あっちにとっても俺は、仲の良い女子の弟、だったと思う。
…あの事件が起きるまでは。
その事件というのは、小学五年生の時の話だった。
小学五年生スタートの4月。
桃李が帯広から転校してきて、同じクラスとなった。
同じ町内会で、帰る方向が一緒。
そんなきっかけで、クラスの違う秋緒や理人とも徐々に仲良くなる。
クロワッサンをご馳走になった件もあり、1ヶ月を過ぎる頃には、俺の純情ラブストーリーは始まっていた。