王子様とブーランジェール



『じゃあ、今度二人で一緒に遊びに行かない?』

『…え?』

『あのね、私、竜堂くんに一目惚れしちゃったみたい…』

『はぁ?!』



…こうして、改めて見ると。

あの時の俺、結構冷たかったなー。

あはは…。



映像の俺、何だかソワソワしてる。

頭を右手でくしゃっと掻いている。

返事を待つ女子に対し。

俺の態度は相当冷たいものだった。



『…無理』

『え?』

『無理。無理っす!ろくに顔も知らない人と遊びに行くとか!無理っす!』

『じ、じゃあ、友達誘ってみんなで行かない?』

『一目惚れとか意味わかんないし、無理です!』

『いや、でもこれから仲良くしてくれれば…』

『いや、結構です。今、ジュースこぼした床拭いてこなきゃいけないんで!じゃ!』

『え?ジュース?』



そう言って、足早にその場を去る俺。

二年生女子は、ワケもわからず、去った俺を『待ってよー!』と、追いかけて去る。

その場には誰もいなくなった。







「…冷たっ」



この何の面白みもない動画に、みんな感想なしの無言だった。

シーンとしてしまった中、奈緒美が一言ボソッと口にする。



「おいおい竜堂。おまえはいつも女子に告られては、こんな塩対応なのか?イケメンだからって調子に乗ってんのかバカめ!」

さすがの狭山もしょっぱい顔をしている。

「いやー…」

これには事情がありまして。

あの時は、心ここにあらずだった。



しかし、事情を知っているヤツは、腹を抱えて笑いを堪えている。

理人だ。



「あの続きはこうだったんだ…ぷっ…どうしてそんなに床拭きたがってんだよ…ぶふっ!」



事情をわかっているからか、もう、大爆笑寸前のようだ。

野郎…。

元はと言えば、おまえのせいじゃねえか。







この映像の直前。

こんなエピソードがあった。



昼休み。弁当食べ終わって教室でだらだらと理人や陣太たちと過ごしていた。



『あー。眠い。パン食いてえー』

『あ、そういや夏輝、2年の女子に呼び出しされてなかったか?』

『そうだそうだ。アッキーナ似の可愛い女子。2年の中でもモテモテなんだってさ。夏輝、付き合っちゃえば?』

『………』

正直な感想。

めんどくせー。

知らない人に好きとか言われても、意味がわからない。

彼女もいたことはあるけど…結局、桃李のことが頭に過って、すぐダメになる。

ぶっちゃけ、桃李以外の女には興味ない。



前の方の席にいる桃李の方をチラリと見る。

どうしているか気になって、すぐに目が行ってしまう。

同じクラスって楽だな。

何しているかすぐ確認できる。



桃李は、いつものように黒沢さんたちとおしゃべりタイムのようだ。



しかし。そこで。

事件が起きていた。



(…うおおぉっ!!)



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