王子様とブーランジェール




転校してきた当時の桃李は、眼鏡にあのライオン丸ヘアを二つに縛るという最近までとほぼ変わらないスタイルであったが。

あの時は、とても体が小さかった。

背の順も一番前で手足も細く、下の学年の子よりも体が小さい。

現在は成長期も経て、身長は155㎝と並みの大きさではあるが、あの当時はまるで小人のようだった。

そして、同時期に我が家の新しい家族となったチワワのピンクにそっくり。小型犬?

身長の高いアマゾネス軍団に囲まれて生活している俺にとっては、小柄な桃李はまるで新しい生命体で物珍しかった。

クロワッサンの件もあり、すでに恋に落ちていた俺は、桃李のことばかりを目で追っている。



かわいいな…。



ひとつ恋に落ちてしまえば、何もかもが好きになる。

人生初めての感情に一喜一憂していた時期でもあった。




華やかな桜は散り、木々は新緑に満たされ夏になる。

夏休みが過ぎると、体を火照らせていた暑さは落ち着き、初秋の空気に包まれる。

丁度、今ぐらいの時期だっただろうか。





『やややや…ど、どうしよう…』



それは、授業が始まる直前のこと。

桃李が席を立ち、挙動不審になっていた。



『ちょっと桃李、また忘れたのー?』

『もうずっと忘れてるしょ…』



クラスの仲良しの女子も、もはや呆れ気味である。



『き、き、昨日までは覚えてたんだけど…』



本日提出することとなっている、毎日の宿題であるワークが、真っ白。

こいつ、またか。

毎日忘れてるじゃねえか。

何で、夜に思い出さない?

まったく…。



『ああああ、どうしよう…』



あわあわと慌てている桃李。

なぜか意味もなくカバンをごそごそとあさっている。

…そんなことしても、ワークは真っ白のままだぞ。



まったく。しゃあねえな。



この時代からもダメドジっぷりは全開で、目も当てられない。

先日は、理科の実験で使う試験管を複数派手に落として割ったり。

雑巾がけに使っていたバケツ、ひっくり返したな。



しかし、この時代からも頼れる男をアピールしたがって仕方ない俺は、その度に桃李の世話をする。

その後の『ありがと』に優越感を感じて調子ブッこいているのも、相変わらずの俺。



さて、今日もか。

仕方ねえな。

時間の限り、ワークの答えを教えて書かせるか。

っていうか、ホントいい加減にしろ。



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