王子様とブーランジェール
『桃李』
桃李を囲んでいる女子の輪の中に割り込む。
『え、あ、ああ…夏輝』
『今から答え教えてやるから急いでワークに書け』
『え、えっ?!』
『いいから早く』
ワケがわかってないままの桃李にシャープペンを持たせ、ワークを開かせる。
結構急かしていたが、予鈴が鳴ってしまった。
『竜堂、何やってるんだ?』
背後から大人の声が耳に入り、ビクッとさせられる。
やばっ。
『あ、先生…』
振り返ると、後ろには担任の先生が立っている。
桃李の机の上に開かれたワークを覗き込みながら。
少しばかりか怪訝そうな表情をしているのがわかった。
『神田、またワークやってこなかったのか?』
『は、はい…すみません』
『じゃあ放課後、残って続きをやりなさい』
『はい…』
『あと竜堂、余計なことをしなくていい』
『………』
突如として、イラッとさせられる。
あぁ?余計なこと?
確かに…これは不正そのものだけれども。
たかが宿題だし。
それに、何だその言い方。冷たく吐き捨てやがって。
何となく偉そうで、上から目線だ。
腹立たしい。
そんな感情を覚える。
『さあ、みんな授業を始めるぞ!』
『はい!』
教卓に戻っていく先生の後ろ姿を、睨み付けるように見送る。
先生の掛け声と共に、速やかに自分の席に着くクラスメイトたち。
しかし、その様はあまりにも機敏すぎて尋常ではない。
まるで軍隊みたいだ。
(ちっ…)
この先生とは反りが合わない。
一学期のうちに、ちょっと意見が違えて軽く揉めてしまってから、そう確信してしまった俺は、不快感が胸に残ったまますでに始まった授業を聞いていた。
短髪でちょっと背が低く、ちょっと小太りで、年齢は30代後半ぐらい。
いつもジャージ姿で、活発な先生。
イケメンとは絶対言えない。
むしろ、ブサイクなおデブ、と言ったらイメージが着く。
その見てくれだけだと、愛嬌があるキャラクターといえばそうなんだけど。
活発というか…とても自己主張の強い先生だ。
やたらと自分の持論を主張したがる。
そのためか、説教がとても長い。
クラスで何か揉め事があったり、先生の気に食わない事態が起きると、授業一時間丸々潰して、説教を始める。
持論と綺麗事だらけの説教を。