王子様とブーランジェール
しかし、その持論には、先生の個人的な世の中に対する不満や、独り善がりの感情的な発言も多い。
だって、とある男性芸能人が一般女性に覚醒剤飲ませて意識不明にさせてしまったにも関わらず、救急車を呼ばないで数時間放置して女性を死なせてしまった事件について、ホイホイと着いていった女性が悪くて、男性芸能人は悪くないって言うんだぞ?
明らかに、覚醒剤所持していた挙げ句に、救急車をすぐに呼ばない男性が悪いだろ。
どこをどうしたら、そう思えるんだ。
他にも、『気合いと誠意を見せろ』との一言で、頭を坊主にしてくる男子生徒もいた。
先生は別に『坊主にしてこい』と強要したワケではないのだが、昔の気合いと誠意=坊主のような前置きをしてからの話だから、単純な小学生はいとも簡単に坊主にしてくる。
しかし、その持論になぜか共感してしまう生徒が多く、先生の言っていることは正しい、絶対だと思い込んでしまう生徒も中にはいるのだ。
その説教が重なるにつれて、クラスの奴らはどんどん陶酔し、先生を崇拝していく。
野球部でもないのに、どんどん坊主が増えていく。
坊主は嫌いじゃないけど、何だか気持ち悪いな。
先生がプリント配る時には、列毎に『ありがとうございます』と言わなければならないし。
何これ。軽く宗教?
先生、教祖様?
だが俺は、先生が造り上げた5年2組という小さい宗教に馴染めずにいた。
先の件を、みんなの前で堂々と指摘してやったら、『竜堂、おまえはまだ子供だな?そんなことではおまえも同じことをやるぞ!』と、ワケのわからないことを言われた。
は?何でそうなんの?絶対そんなことやんねーし。
明らかに悪いことした人を、全力で肯定する先生、おかしくね?
先生の言ってることも矛盾だらけだし。
それからもう、先生には不信感でいっぱいだ。
向こうも俺のことを嫌いだろう。扱いにくいとかって。
他にも、俺のように先生の造り上げたクラスに馴染めないヤツもいた。
その女子、今は不登校になっている。
だが俺は、人との距離の取り方や接し方については、そんなに不器用ではない。
嫌悪感を腹に抱え、心を開かずとも、当たり障りなくやっていけていた。
先生とは最小限の会話と接触で。
それなりの学校生活を。
…今日までは。
『…あれ。夏輝くん、桃李はもう帰ったのですか?』
放課後。
隣のクラスの秋緒が桃李を迎えに来る。
一瞬に帰る目的で。
『…あいつは自習室だよ。居残りで忘れたワークやらされてんの』