王子様とブーランジェール
『やだなー?君が無謀にも前村に歯向かうことがなければこの動画もなかったでしょ?それとも何?このまま教祖の下、飼い殺された小学校ライフを送るつもりだったの?無血で解決するなんて無理だろ?何かを変えるには、何かを捨てなきゃいけない場合もある』
そう言って、彼はまた腹を抱えて笑っている。
またか!
『無茶苦茶なことばかり言いやがって…!』
『まあ?たかが小学生が何の策も無いまま単純に歯向かって大人に勝てるワケないけどね?少し頭を使った方が良い。俺みたいに?』
『ちっ…!』
『ガキは大人には相手にされない。だけど、ガキに必要とされたい、あえて利用されたいと思っている大人は結構いる。ここにいたおっさんおばさん達みたいなのがね?そういうのを利用しなきゃ』
『利用…すげえ嫌な言い方』
『そう?大人って、案外子供にかまってほしいんだよ?それに、守りたいもののために、手段を選んでいる場合じゃない』
その時の、彼の不敵な笑みが。
悪魔のようなドヤ顔は、今も忘れられない。
『守りたいものがあるなら、強くなればいいし。傷つけたくないなら、負けなければいいだけの話なんじゃないのか。だから俺は、せめて自分の手に届く範囲のものを守るための強さは備えてるつもりだよ?頭も腕っぷしも』
ずいっとドヤ顔で覗き込まれて、ビクッとしてしまう。
守りたいものがあるなら、強くなれ…?
守るために、負けるな…?
…そうか。
俺には、まだまだ強さが備わってなかった…のか。
しかし、酒屋の兄ちゃんは、ドヤ顔そのままじっと上から下までじろじろ見てくる。
な、何だよ。
『…まあ、そんなもやしみたいなひよっこな体じゃ、全然無理だろうけどねー?貧相』
『…はぁ?』
『あの動画見てわかる通り、君、全然力が備わってないよね?…あ、腕っぷし強くなりたいなら、格闘技とかやってみる?商店街の並びにキックボクシングジムあるよ?それ食べたら行ってみる?オーナーと仲良しだから、連れてってあげるよ?』
『はぁ…』
そして、数分後にはそのキックボクシングジムとやらに連れて行かれた。
…ちなみに、これが俺のキックボクシングを始めたきっかけとなるのであった。
この件をもって、痛感する。
今のままじゃ、まだ足りない。
強さが必要だ。頭も力も。
このままじゃ、頼りになんてならないぞ。
守りたいものすら、守れない。
もっと、強く。