王子様とブーランジェール



ホンっトに、ダメなドジ女。

危なっかしくて見てられない。



…でも、だからこそ。

俺が傍に着いていてやらなきゃいけない、なんて。

いつも思う。




『やややや。べ、ベトベト…』

俺の言うとおりに雑巾を絞って拭いてを繰り返している。

手つきが慣れてない。

『もっと固く絞れ。でないと終わらねえよ』

『うん…』



何も出来なくて困った時には、一番に頼りにしてほしい。



『いやぁー…終わらないよぉ…夏輝、水拭きも手伝ってくれる?』

『わかったわかった。しょうがねえ。手伝ってやるから、さっさとやれ』



どんだけでも付き合ってやるよ。

一秒でも長く、一緒にいたいから。




掃除という共同作業に、少しばかりの幸せを感じてしまっていた。

こんなに近くに、一緒にいられる。



一生懸命、床拭きをしている桃李の横顔を見る。

可愛いなー。

『桃李、眼鏡ずれてる。直せ』

『あ、ホント?』

『あぁぁ!人前で眼鏡をはずすんじゃねえ!』

危ねえな!




一緒にいられるなら、掃除でも何でもやってやるぜ。

で、頼りになる男アピールだ。

桃李にとっての一番の男を目指せ俺。



少しばかりの下心全開。




『夏輝、手伝うかー?』

理人が来やがった。

…おまえは邪魔だ!どっか行け!

『いい。ここは俺がやる。手出し無用だ』

『下心全開だな』

うるせえぞ!嫌み野郎!

イタイところをはっきり口にしてんじゃねえよ!(…)




そんな幸せの床拭きをしていたワケで。

2年女子との約束をすっかり忘れていた。

そのまますっぽかすことができたら、よかったのに。

なんと、向こうから直々にお出まししたのだった。




『竜堂くん、いますかぁー?』



アッキーナ似の二年生が、教室を覗きこみ、俺を探している。

顔を見た途端、約束のことを思い出した。

ちっ。こんな時に。
しまった。



俺を見つけては、手を振りながら教室内に入ってくる。

入ってくんなよ…。




『…あれ?竜堂くん、何してるの?』

『あ、いえ、ちょっと。こいつがジュースこぼしちゃって』

桃李が横でうんうんと頷いている。

しかし、2年女子は『ふーん…まあいいや』と、言い、俺の腕を引っ張る。

『ねえねえ、私の約束忘れてないよねー?行こ?』

まあいいやってか。

俺が何してるのかわからないか?

今はそれどころではない。

やんわりとお断りしようと思った。

『すみません、今こんなことになっちゃって。すみませんが、また今度にしてもらえませんか?』

しかし、その女は引き下がらない。



『えー。竜堂くんがこぼしたんじゃないんでしょ?そんなの誰かに頼めばいいじゃん。行こうよー』




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