王子様とブーランジェール




…それから、前村先生の被害にあった生徒、親。野次馬のような商店街のおっさんおばさん、加えて俺のじいさんと親父が押し掛け、小学校は大混乱だったらしい。

その翌日から、前村先生は学校に来なくなったという。

そのまた翌日には、家に教育委員会の人が来る。

色々、話を聞かれた。

洗いざらい起こった出来事を話した…いや、桃李の名前だけはどうしても出せなかった。

無力な俺の小さい抵抗だったのか、単にチキンなだけなのか。




そのまた翌日には、親父にキャンプに連れていかれる。

学校に行き始めようかどうか、気が向きそうだったのに…。

テント、自炊の生活すること一週間。

加えて、毎晩親父の好きな討論会。

俺が女子校に転校すると言った件についての討論が一番長かった…。

寝れない。殺される寸前。

更に加えて、日中は登山をさせられる。

寝不足の中、登山道のないところを歩かされ、遭難するんじゃないかと常に思わされる。

死とは隣り合わせ。殺される寸前。

まるで、引きこもりに対する刑罰のようだった。

まさしく、キャンプの刑。

…もう、二度と引きこもりをしないことを誓った。










…長くなってしまったが、これが、俺と酒屋の兄ちゃんとの出会いで。

それからは、道で会うたびにちょくちょく話し込んだり、互いの犬を連れてドッグランに行ったりと。

それなりに交流はある。

最近は互いに忙しくて会ってなかったかも…。



この件で、いっぱしの口を聞くためには、それ相応の『強さ』というものが必要なことがわかった。

粋がっていたつもりはないのだけど、あの時の俺じゃあ粋がっているただの小生意気な坊主で。

自分はまだまだ未熟だと思い知らされたという、苦い思い出だった。

この件を糧に、自分なりにやることはやってきたつもりだけど。

…まだまだ足りないな。なんて思う。

昔のこの件といい、現在抱えているこの襲撃事件といい。

結局は、一人では解決できず、周りを巻き込んでしまっているし。



本当、まだまだだ…。



追憶の味は苦かった。




…だが、このミスター出てこいや襲撃事件は、一晩で思わぬ展開を見せる。



全員、仕事が早い。







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