王子様とブーランジェール
「あ、危ない…部外者連れてったら先輩たちに怒られるよー」
歩きながら、尾ノ上さんが長く息を吐く。
「桃李は狭山さん大好きだからね…。一緒に遊びたかったんだよ」
やはり。そうなのか。
桃李が狭山を気に入っているとは…。
一緒に遊びたかった?…なぜ、あんな危ないヤツのこと好きなんだ。仲良くしたがるんだ?
仲良くしすぎて、バカめ!って口癖うつったら困るっつーの。
「でも、桃李も被害者なんだよね…おでこ」
「そうだね。何としても早くヤツらを何とかしないとね」
その話は、耳が痛い。
あの時、あと一歩、手が届かなかった。
思い出しただけでも、腹立たしい話だ。
けど、連中の素性がわかった。
もう少しだ。
とうとうだ。
おとなしくしていろだの言われたが。
そろそろ出番じゃね?
こうなったら、もう…。
…黒幕の腹を、ブチ抜いてやるわ!
今までやられた生徒らのぶんと、桃李のデコ含めて。
完膚なきまでに、粉々にしてやる…!
「…で、何でおまえ着いてくんのよ」
俺の後ろには、理人がいる。
弁当を持って俺の後ろに着いてきていた。
「だって俺だって相撲大会見たいもん。誰が優勝するか気になるでしょ。本命狭山さん、対抗伊藤さん、大穴林さん」
「早弁してこいって怒られるぞ」
「したらごめんって謝る」
まったく、その野次馬根性、何だ?
家庭科室には、すでに何人か集まっていた。
テーブル席を陣取りおやつを食べている女子、教卓でパソコンを覗き込んでいる、狭山や菜月ら。
昨日と同じような光景だ。
「おー!おつかれなのだー!」
「…あ!おまえ!」
俺達の後に、いつもの調子で手を振りながら、家庭科室に入ってくる。
松嶋だ。
「おまえ、今学校来たのか?」
「昨日夜遅くて寝坊してもうた。すまんすまん」
すまんと言いながらも、悪気はなさそうだ。
笑っていて、ヘラヘラしている。
「慎吾、昨日大変だったんだろー」
理人はもうテーブル席に座っており、早速弁当を食べ始めていた。
隣にいた女子に「おまえ早弁してこいよー」と言われている。
こちらも悪気なく「すまん」と言い、食べつづけていた。
馴染んでる…。
「徹夜?」
「まあねー。でも良い仕事したから期待してくり」
そう言って、軽く俺の背中を叩く。
ったく…。