王子様とブーランジェール
江別市の早瀬高校…。
…お隣の市ではあるが、聞いたことないな。
そんなに有名な高校でもないのか?
「ですが、そこで。松嶋がヤンキー仲間と、この早瀬高校について徹夜で情報収集してきてくれました。そのおかげで、この襲撃事件の全容がわかりました」
菜月がタブレットの画面をスワイプすると、地図が出てくる。
「江別市立早瀬高等学校。生徒数の減少を理由に2年前、江別南高校と江別早戸高校が合併した高校で、JR江別駅より徒歩15分のところにあります。合併の際に制服もモデルチェンジしてます」
「合併?だから、見たことない制服だったのか!」
「早瀬なんて高校、名前も聞いたことない!」
女子たちは次々と口にする。
市外の話だし、無理もない。
「合併したのは良いのですが、なんせ江別早戸高校が低偏差値のどヤンキー高校。早戸高校そのままのカラーが新校にも受け継がれてしまったようです。規模も大きくなり、この江別では勢力を強めているようですよ?治安の悪い、漫画そのもののヤンキー高校となっているようです」
「…人数増えたからって調子に乗ってんだよ」
松嶋が鼻で笑って補足する。
ヤンキーの表情がチラッと見えてしまっている。
緑ブレザーはその早瀬高校。
早瀬高校は、どヤンキー高校。
それは、わかった。
だが、しかし。
そいつらと俺。
何の関係あんの?
早瀬高校なんて、今日初めてその存在を知ったのに。
俺、何か恨まれることした?
はいっ!
…って、挙手して聞いてみたいわ。
しかし、話はもちろんそれで終わりではない。
とりあえず、話の続きを黙って聞く。
「大所帯ヤンキー集団となった早瀬高校。その大所帯を牛耳る者が現れ、学校そのものがチームとなってしまいました。彼らは自らの団体を『BAYASE』(バヤセ)と名乗っています。単車ゴロゴロ転がす連中もいて、周りからは暴走族と言われてもいますが」
その時、理人がブッと大きく吹き出した。
「ださっ」と呟いている。
場痩せ…?
…じゃないか。バヤセ?
早瀬、とかけてるのか。
あえての横文字、なぜ?
なんであえての濁点?
理人の反応もわかる。
バヤセ…。
…どっかで聞いたな。
腹痩せ?…桃李か?
頭の中の記憶を巡らせてみるが、そんなの待ってはもらえず、次々と話は進む。