王子様とブーランジェール
「新ミスター誕生の情報はSNSでも随分拡散されてるし、ミスター竜堂の写真もネット上にはいっぱい出ている。見ず知らずの女子がダンナのことを知るルートなんていくらでもあるよ」
それは…あの誕生日のプレゼント贈答会を見ても明らかだ。
何の縁もゆかりもない女子たちが、ああやって学校に押し掛けてくるんだし。
「…その『姫』っていうのが、この人。早瀬高一年、森原瞳」
松嶋が菜月の持っているタブレットの画面をスクロールする。
パッと女子の写真が出てきた。
金髪のロングヘアの女子。
目が青い。…カラコン?
全体的に、こいつも不健康そう。
まさに、ど真ん中ヤンギャル。
「…ん?」
「どした?」
今一度、その画面を覗き込む。
この女子、どこかで…。
《私、バヤセの総長の姫なんですけど、夏輝様のこと好きになっちゃって、姫やめたんです…》
「…あ。…あああぁぁぁっ!!」
頭の中の記憶が掘り返され、それが一気に繋がる。
この女…!
「夏輝、知ってる人?」
「こ、この間の…誕生日に…いた…」
とてもふざけたことを言っていたし。
小笠原に連行されていったので、よく覚えている。
この女子、先日の誕生日に、学校に来ていた…!
「そうか。この姫とやらは竜堂と接触しておったか」
「あの長蛇の列の中にいたんだね…」
狭山と美梨也は頷いて妙に納得している。
「…このバヤセ姫が、ダンナに一目惚れをしてマシュー総長に別れを持ち掛けたのが、夏休み終了直後。独占欲の強いマシュー総長はカンカン。自分の女が他の男に取られるなんて、プライドが許さなかったようだ。絶対に別れるまいと、四六時中傍に置いて見張ってたみたい。姫が隙を突いて逃げ出したら、総動員で追い掛けて連れ戻す、ということが何度もあったらしい」
「ヤンキーって硬派らしいからねー」
「硬派?でも、好きじゃなくなった男に束縛されるとか、超苦痛じゃね?総長だか棟梁だか知らないけど」
「硬派も傍迷惑じゃん。ヤンキーマジうざ」
女子たち、好き放題言ってんな…。
「しかし、姫の気持ちを持ってかれたマシュー総長は、怒りが治まらない。…てなわけで、今回の襲撃事件は起こった、というワケ」
すると、女子の一人が『はいっ!』と挙手する。
出た。始まった。
捜索会議風挙手制度。
「女取られてマジムカつくんなら、何でうちの男子襲うワケ?ヤンキーならバーンとミスター竜堂にタイマン?じゃないの?」