王子様とブーランジェール
すると、松嶋は「ははっ」と苦笑いする。
「ホント。俺もそう思うでー?…でも、このマシュー総長は、ビビったんだ。どこかで、ダンナが強いという情報を聞き付けてしまったのだよ」
「ミスター竜堂の強さ?」
「たぶん、学校祭のデスマッチの噂をどこかで聞き付けたんだろな。真っ向からタイマン持ちかけんのは自信なかったんじゃね?」
そんなものの噂まで隣の市に出回っているとは…。
俺、何?有名人なの?
「そこが正統派ではない三流ヤンキーの考え方よ。負ける勝負は絶対に出来ない。プライドが許さないからにゃあ?正統派ヤンキーなら、自分たちより弱かろうが強かろうが、そんなのお構い無く真っ向タイマン。そんな腰の抜けたプライドなんぞ持ち合わせてないで?」
松嶋。それは、自分は一流ヤンキーと言いたいのか?
見た目からしておまえがヤンキーだなんて、俺、まだ信じられないんだけど。
「真っ向タイマンじゃ竜堂のダンナには勝てない。そう考えたマシュー総長はじめ、バヤセの幹部はとあることを思い付いた。それが、この襲撃事件。ちなみにこの襲撃事件を考案し、指揮を取ったのがこの男。バヤセの幹部、早瀬高2年、加藤淳司」
松嶋が画面をもう一度スクロールする。
男子の写真が出てきた。
別にこれといった特徴のない、サラサラ黒髪の男子。
ピアスと細眉…少し昔くさい。
「《ミスター出てこいや!》と言いつつ、学校の男子生徒を少しずつボコっていく。出てこいや!と伝言を頼んでいるので、もちろんミスターの耳にも入る。…そうした嫌がらせを続けて、ミスターの怒りを煽っていく。…そこが奴らの狙い、だった」
「…だった?って何だよ。過去形?」
「竜堂のダンナが、挑発されて自分の高校の生徒がやられて黙っているワケがない。…バヤセ側は、これから自分たちの素性を少しずつ明かしていく予定だった。そして、怒りで我を忘れた竜堂のダンナが、一人で自分たちのところに乗り込んでくる、そこを総動員でボコボコに叩く、という手筈だったらしい」
「…はぁ?!そんな作戦だったのか!」
そこまで計画していたのか?
俺を一人、自分たちのホームで集団でボコる…そこまで!
ナメられたもんだ…。
許されないわ!腹立たしい!
こざかさしいわ!
しかし、この男は…。
『危ないところだったね。危ない危ない。敵の思惑にまんまとハマるところだったね?夏輝?』
「…何だとコラァーっ!!」