王子様とブーランジェール
俺が、敵の思惑に?!ハマる?
そんなこと…!
『だって、エリや残党たちが介入してこなかったら、一人で解決するつもりだったんだろ?相手を見つけて一人で乗り込んでいくぐらいの勢いだったろ。恐らく』
「………」
なぜわかる…。
確かに、そう意気込んでいた時期もあったな。
パソコン越しに俺達の話を黙って聞いていた顧問、酒屋の兄ちゃんが、とうとう口を開く。
涼しげな話し方と声がスピーカーから響いていた。
『しかし、やはり三流。ツメが甘いね?その作戦、本当に成功すると思っていたのかが疑問だけど?松嶋、ご苦労様。よく調べたね?』
「先輩の知り合いにバヤセの関係者がいたんで。この姫絡みの問題、動機が短絡的すぎるってバヤセの内部でも困っていたみたいです」
『トップがバカだと困っちゃうよね?…うーん。面白くなってきた。いいこと考えちゃった』
「…おい!おまえ!名案思い付いたのか?!」
狭山がぐいっと画面を覗き込む。
スピーカーから兄ちゃんの笑い声が「ははっ」と聞こえた。
同時にポン太の「わんっ!」という鳴き声も聞こえる。
『エリがアップで映ったからクソ犬が喜んじゃった。…さあ、みんな。敵の素性と目的がわかったところで、こっちも反撃だ。一泡吹かせてやろう』
反撃…とうとう!
「…敵陣に乗り込むのか?!」
思いあまって、俺もパソコンの画面を覗き込んでしまう。
画面の向こうのポン太がまた「わんわんっ!」と吠えた。
『夏輝が映ってもポン太喜んじゃった。お友達のピンクちゃんのパパだからねー?…って、真っ向から突っ込もうとするの、夏輝の悪いクセ。だからスケこましヤローって言われるんだよ』
「なっ…スケこましヤロー関係あるか! 」
『敵陣に乗り込むのは、奴らの思うツボだってわかったでしょ?…でも、あえて同じ土俵に上がって、向こうがやろうとしていたことを、こっちが仕掛けてやるんだ』
「あいつらがやろうとしていたこと?」
『そうそう。奴らを迎え撃つ。ここで。この学校で』
「迎え撃つ…?!」
奴らをここ…この星天高校で、迎え撃つ?!
この高校の敷地内で、ケンカをしろと!
「な、何言ってんだよ!無理あるだろ!」
ヤンキー高校でもないこのお真面目進学校で?
ヤンキーとケンカ?
…出来るか!
いろんな問題が生じるだろうが!