王子様とブーランジェール
俺の反論に、酒屋の兄ちゃんは予想していたかのように大爆笑している。
明らかにバカにされている。そう感じるとイラッとしてしまった。
「何がおかしいんだよ!」
『いやー。夏輝は反応が予想通りで面白いよ。昔から。…無理があると思うなら、無理がないような万全の環境を整えれば良い』
「万全の環境?」
『敵衆を夜の学校に誘い出す。誰もいない、君たちだけがいる状態の、夜の学校に』
夜の学校で…?!
『残念ながら、こっちは相手と違って兵隊が少ない。アウェイ状態で迂闊に敵陣に乗り込んでは敗北の可能性が高い。だから、限られた兵隊で勝利をおさめるには、ホームで策を練って罠に仕掛けてやる。あえての挑戦状を叩きつけてやれ』
そう言って兄ちゃんは、一枚の紙切れを見せてくる。
『…こんな風に、ね?』
よく見えないので、パソコンの画面に顔を近付ける。
すると、菜月が「ここに画像ありますよ」と、タブレットを見せてくれる。
「………」
画像を確認したが。
これは…何も言えない。
…な、何だこれは!
パソコンで作ったのか?
デカデカと《おまえらが出てこいや!》と明朝体で書かれている。
真ん中には、犬の写真。カメラ目線でアップだ。
チワワ…。
…いや、この写真の犬。よく知ってる。
俺んちの犬だ。
ピンクの写真!
そして、下に小さく《明日木曜日の夜9時、星天高校にて待つ!》と、書かれている。
そして、更にその下に、更に小さく《星天高校へのアクセス》と書かれ、交通機関を詳しく説明する文が。
《単車でお越しの場合》と、国道274号線から羊ヶ丘通…道路案内も書かれている。
何これ。
イベントのチラシみたい…。
《単車は駐輪場に停めてください》って書かれてるし…。
拍子抜けする。
「しかし、こんなんで来てくれるのかねー。明らかに怪しいじゃんー」
美梨也がそっくりそのままの感想を述べている。
ここにいる誰もがそう思ってる…。
彼女の狭山でさえ微妙な顔付きだ。
『大丈夫大丈夫。こっちには人質がいる』
人質…昨日藤ノ宮が捕まえた、現在拉致監禁してる連中のことか?
『人質の拘束されて憔悴しきっている写真を撮って、一緒に添付して送信してやれ。写真撮った後はそいつらにシャトーブリアンでも食べさせてやったらいいよ。殺すつもりなんてサラサラない。痛い思いはさせてやるけど』
そう言って、クックッ…と笑っている。
カップルって、笑い方似ちゃうもんなの?