王子様とブーランジェール
『…と、見せかけて川越です。お久しぶり、麗華嬢』
「…あっ!あらっ!その声は、エリお姐様のダーリンじゃないですか!お久しぶりですわ!」
『年末のパーティー以来かな?まさか本当にこの高校受験したんだ。お嬢様なのに』
「オホホホ!お嬢様学校には無い刺激がありますわよ!素敵なお友達や殿方にもお会い出来ましたし?」
面識あるのか、画面越しに二人で談笑を始めている…。
小笠原はいつの間にか扇子を取り出して広げて、口元隠して笑っていた。
「おぉい!世間話はそこまでにしとけ!バカめ!」と、狭山が間に入り込む。
「…麗華。今の話、盗み聞きしていただろ?…竜堂の言っていた通り、バヤセ姫と連絡取れるのか?どうなんだ?あぁ?」
狭山が小笠原に、顔を近づけてずいっと凄んだ。
「………」
小笠原は扇子で口元を隠したまま、狭山の目を黙ってじっと見ている。
しかし、鎮まる間もなく「オホホホ!」と笑い出した。
「お姐様…誰にモノを申しているのですか?」
「あぁ?」
「そのお仕事、見事にこなしてみせましょう?…見た目とお金だけのお嬢様ではありませんわよ?」
小笠原は自分のスマホの画面を狭山にチラつかせている。
画面には『瞳』というアカウントのホーム画面だ。
瞳…バヤセ姫だ!
「明日の夜9時までケータイを取り上げ、どこかに身を隠させれば良いのですね?御安い御用ですわ?」
そして、また「オホホホ!」と高笑いをする。
よく笑うな。
『麗華嬢、頼むよ?この作戦の成功は君の技量にかかっていると言っても過言ではないからね』
「オホホホ!お任せください?私達の夏輝様のために立派に任務遂行してみせますわ?オホホホ!」
兄ちゃんが無駄にヨイショするから、小笠原はまた更に高笑いをしていた。
余計な…。
『私達の夏輝様だってー。わー。夏輝のスケこましー』
…余計な!
「そうとなれば早速、この見た目も中身もパーな女の確保と教育に取りかかりますわ!…夏輝様?御武運お祈り致します!」
「え?あ、はぁ…」
そう言い残して、小笠原麗華と愉快な仲間たちは風のように消えていった。
立ち去るの、早っ。
すると、パソコンのスピーカーから手をパンパンと叩く音が聞こえる。
画面を見ると兄ちゃんが手を叩いていた。
『さあさあ。これでどうにか奴らを誘い出せそうだね。…後は、君たち残党の出番だ。明日夜9時、この高校を舞台に、たくさんのマヌケ不良たちを木っ端微塵に出来る方法を考えてくれ。そこは、君たちの得意分野だ』