王子様とブーランジェール
緊張感のねえヤツだな。
こっちは逆に変な緊張感でピリピリしちゃって、何となく落ち着かねえのに。
そんな緊張感ゼロの友人を見送ると、教室に一人になってしまった。
一人でいても…と思い、俺も席を立つ。
とりあえず、家庭科室に行ってみるか。
すると、廊下からパタパタと足音がして止まる。
「…夏輝?」
その声に、ドキッとさせられる。
えっ…ここで、何で?
もう帰ったんじゃなかったのか?
完全下校の時間が近付いていて、大体の生徒はもう捌けたというこの時間に、まだいたのか?
「…桃李、まだ帰ってなかったのか?」
「あ、な、夏輝に話あって」
そう言って、手に持っていたいつもの大きいピンクのリュックを、傍にあった机の上に置いている。
なぜ、ここで登場する。桃李。
「俺に話?何だよ」
「あ、ああ、あああのねっ…あ、あ、あ明日…」
『あ』が多い。
じゃなくて、吃り過ぎだろ。
そういえば、こうしてちゃんと桃李と話すのは久々かもしれない。
何だか…余裕がなかった。いろんなことがありすぎて。
ボーッと考えながら、一人で勝手にあわあわと吃っているその姿を目に入れる。
「っつーか、落ち着け。何だ」
「あのっあのっ、明日、野球部の応援…円山球場っ…お父さん乗せてくれるって!送ってくれるって!」
「は?おじさん?」
「…お、お父さん、営業で明日、円山球場の傍通るから送ってくれるって。夏輝と理人も応援行くなら連れてってくれるって言うの。お父さん。い、行く?」
「あ、マジか」
それはありがたい。サッカー部は全員半ば強制参加なんだよ。
「い、い、一緒に行こ…」
一緒に?行こ?
俺と?
…あ、理人も一緒か。ちっ。
「送ってくれんのは助かるな。桃李は行くのか?」
「あ、うん!りみちゃんも行くから…」
やばい。やばいぞこれ。
明日は桃李と一緒に行ける。
嬉しい。やった。やったぞ。
理人という邪魔者も一緒だけどな。
でも、桃李と片道だけでも一緒とか、マジヤバい嬉しい。
久々の喜ばしい出来事だ。楽しみになってしまう。
「じゃあ明日、何時に出るかわかったら教えてくれ。合わせてパンダフルに行くから」
「う、うん!わかった!」
…そんな楽しみも出来てしまったけど。
それは、これから起こるミッションを片付けて勝利しないと話にならない。