王子様とブーランジェール
桃李の姿を見ると、どうしても目に入ってしまう。額の小さいガーゼ。
それを見ただけで、罪悪感でいっぱいになる。
俺が原因の揉め事に巻き込んでしまった。
あの時もっと…なんて、後悔を延々と繰り返してしまう。
…だけど、こんな悲劇だらけの茶番劇も、もう今日で終わりにしてやる。
クソ不良ども。絶対許されないぞ。
絶対、全員皆殺しだ。
「…じゃあおじさんによろしく言っといて。おまえももう帰れよ?じゃ」
「あ…」
またしても意気込んでしまったところで、自分のカバンを手に取る。
家庭科室に行って、奴らを迎え撃つ準備をしなくてはならない。
桃李に一言告げて、教室を出る。
「…ままま、ま、待って!」
「ん?」
呼び止められて振り向いたと同時に、体の左側にドン!と衝撃をくらった。
反動で少し後ろによろめく。
何か、ぶつかってきた!
…いや、何かと言わなくてもわかる。
「あいたたた…ま、まま、待って…」
廊下に飛び出してきて、またしても突進して、ぶつかってきた。
ヤツは俺の左腕をしっかり掴んでいる。
なぜ、普通に引き留めることが出来ないのか。
だから。距離感はないのかおまえは!
「…何だよ急に!ぶつかってきやがって!」
「お願い!ま、待って!」
「…だから、もう待っとるわ!おまえぇぇっ!」
またこのくだりか!
いい加減にしろ!
…と、久々に怒鳴りそうになってしまったが。
「こ、これから、不良と…け、ケンカするの?」
そう言う桃李の手は震えていて。
その震動が、掴まれている左腕に伝わってくる。
「は?何でおまえ…」
「で、出てこいや!って言われて…出ていくの?」
「何でそれを知ってんだよ!」
「ま、真奈ちゃんと美咲ちゃんがこそこそ話してたの聞いて…何のこと?って聞いたら『何でもないよーあははは』って言われたけど…」
おい。重要機密事項をこそこそ話だろうが外でベラベラ喋るんじゃない。
ったく、こいつも普段気にしないのに、何でこういう話は聞いてるんだか。
「夏輝…危ないよ」
「…は、はぁ?!」
あ、危ない?
見上げるその目は、うるうるし始めていた。
そんな目で見るな。
かわいい…い、いや。危ない?と言われたけど、それは何だ?
「け、ケンカは危ないよ。や、や、やめよう?またボコボコにされちゃうよっ…」
「………」