王子様とブーランジェール




腕にしがみついている桃李を見てると。

高ぶる想いを、抑えられなくて。

なぜこんなにも必死に俺を行かせまいとしているのかは、よくわからないままなんだけど。

そんな目で見つめられると…抱き寄せられずには、いられなかった。




理性がブッ飛んだ。




腕の中では、しっかりとホールドされた桃李がまだ力弱くもがいている。

「くるしい…」と、微かに声が聞こえた。

あ、そうか。思いあまって力入れすぎた。

そう思って、腕の力を少し弱めると、ガバッと顔を上げてくる。

「なっ!…なななな…あ、や、も…」

言葉になってない。あやも?何だそれ。

しかし、その慌てて真っ赤になった顔からそのパニった理由がわかる。

さすがの桃李も、この抱き締められているという事態はわかるか。




「な、な夏輝!…な、なな何してっ…」



挙動不審MAXの桃李は、そう言いながら俺を見上げる。

そのチワワみたいなウルった瞳と目が合った。




ドキッとさせられながらも、おでこのど真ん中にあるガーゼが嫌でも目に入る。



…ちっ。この傷こそ。

俺がもっとしっかりしていれば、冷静に事を見てもっと早く行動に移していれば防げたことなのに。

悔やまれる…。



ごめん…。




「…な、夏輝!ち、ちょっと!な、やめ!やめっ」



桃李の言葉が、やっと言葉になっている。

だが、騒いでいるのもお構い無しに。

額のガーゼを、覗き込むように見つめ続けた後。

その流れで、ゆっくりとそこに唇で触れてしまう。



「やっ…」



その瞬間、もがいていた桃李の動きが一気に止まる。

額のガーゼに唇を当て続けていると、何となくブルブルと震えていた。

「ひっ…」と、静かに呻いている。




ガーゼ、ザラッとしてる。

あまり良い感触じゃない。




「…何ブルブル震えてんだよ」




ガーゼから唇を離して、桃李を見る。

グッと目をつぶっていた桃李だったが、声をかけるとその目をゆっくり開けていた。

目が合うと逸らされる。

顔が更に真っ赤になっていて、目がうるついたままだ。

震えも止まってなくて…何?マジでチワワ?

いや、照れてんの?

か、かわいい…。




「な、なな夏輝が急に…するからっ」

「…は?」

「お、おおおでこに、き、き…」




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