王子様とブーランジェール
おでこにキス。
と、言いたいのか。
(………)
…うぉっ!
頭の中で事実を言葉にしてしまうと、一気に恥ずかしさ満載となった。
途端に頭が熱くなってくる。
何てことをしてるんだ俺は…。
しかし、ここまで来てそれはもう止められない。
その恥ずかしさを誤魔化すかのように、再び桃李を腕で引き寄せて、自分の胸の中に押し付けるように抱き締める。
同時に桃李がまた声をあげた。
「ひゃっ…」
「黙ってろ」
「えっ…」
強引かもしれないけど。
もう少し…こうしていたい。
「あとちょっと…このまま…」
「………」
桃李の体の震えがふと治まった。
体を包んでいる腕から感じていた震動が消えて、ガチガチだった体の力が抜けているのがわかる。
桃李…あったかいな。
体に伝わる体温が、心地よくて。
温もりに、ホッとさせられる。
その体温を感じると、体に張り詰めていたいろんなものがほどけて、溶けていくような気がした。
そして、じんわりと染みていく。
体、柔らかくて気持ちいい。
桃李の頭に頬を乗せて、息を吐く。
胸の中にたまっていたものを吐き出すように、深く。
この静寂が訪れた教室で、ただ静かに。
その染みる温もりを味わうかのように。
ただ、抱き締め続けていた。
何も言葉も交わさずに、そのまま。
…このままずっと、俺に抱き締められ続けて。
おまえの頭ん中、俺でいっぱいになればいいのに。
…時間、どのくらい経ったのか。
教室の壁掛け時計を見ると、もう5時半になろうとしていた。
いつの間に。
腕に包まれたままの桃李の様子を見る。
俺の胸に顔を埋めたたまま、言われた通りにお利口さんに黙っていた。
この身を預けてくれている感…頼りにされている風がたまらない。
いや、俺が黙ってろと言ったからか。
正直。
ずっとこうしていたいけど、刻々と時間が迫ってきてるのが現実だったりする。
「…おい」
腕を緩めて下ろすと、桃李がそっと離れる。
「………」
顔はうつむいたままだ。
「…も、もう帰ってもいいぞ?」
「………」
あ…。
桃李、無言になっちゃった。
…いや、そうだよな。
俺から強引にこんなことしておいて、気が済んだからもう帰れって…。
俺、どんだけ自分勝手なんだ…。
印象最悪じゃね?
最っ低…。