王子様とブーランジェール
死ぬこと以外は擦り傷
ただいまの時間は、6時を迎える。
誰もいない、先生すらお帰りになったガラーンとした学校。
しかし、家庭科室内は裏腹に慌ただしさを増していた。
「…美梨也さん!例のモノ完成です!」
「ちょっと!あれのメンテナンス終わった?!」
「もう一回計画書見直しといて!」
「よーし!完成したなら正面玄関口へ持っていくよー!時間になったら外に出す!」
「はい!」
美梨也の合図で、女子三人ほどで一生懸命作っていた看板を運び出す。
看板には『第二回SPLASH!パーティー会場』と書かれている。
は?SPLASH?何それ。
美梨也に聞いてみると、カモフラージュの看板、だそうだ。
二村さんが学校側への申請書に『バイク品評会及びレクリエーション』と書いてしまったので、そのイベントを実際に行うかのような準備をしなくてはならず。
急遽、会場設営することになったようだ。
しかし、クオリティは高い。本格的だぞ。
その模様を、家庭科室の隅に座りながらボーッと見ている。
先程手伝おうとしたら、『ミスターは黙ってそこに座っとけ!』と言われた。
しかし、隣には話相手がいる。
「…へぇー。剣道…」
「そう。小学校…3年ぐらいからかにゃ。中学入ってからしばらくしてやめたけど」
松嶋はそう話しながら、牛乳パックにストローを差して飲んでいる。
俺も隣で理人の買ってきたコンビニアイスコーヒーを飲みながら、話に耳を傾けていた。
松嶋と談笑か。
数ヶ月前じゃ、考えられない。
「その剣道って、もしかして藤ノ宮も一緒に?」
「あぁーうん。律子とは道場で知り合ったカンジ。親同士も仲良くてさ」
「…何でやめた?」
「ははっ。いろいろあんのよー。思春期だし」
「思春期ねぇー」
その言葉でひとくくりにしてもな。
だなんて思いながらも、松嶋をチラッと見る。
ヤツは相変わらずヘラッとしながら話を続けていた。
「…試合に勝てなくなってな。もううんざりしたワケさ」
「ふーん。停滞期だったのか?それは誰にでも…」
「でもさー。そんな俺とは逆に律子はバンバン賞取って強化選手とかに選ばれてるワケでしょー。でも、やればやるほど空回って。で、バカバカしくなってやめた。で、その時ちょうどヤンキーの先輩や仲間と出会って、そっちの方が面白くなってさ」