王子様とブーランジェール
それで、非行の道に走ったワケか。
そうか。あの鉄パイプさばきは、やはり武道をかじっていたことによるものか。
でも、本当に侍みたいだったぞ。
剣道やっていただけのモノではない。
ヤンキーで実戦を重ねたことも関係していると思う。
「ヤンキー時代はそら楽しかったよ。毎日ケンカして仲間とつるんで女とヤッて。クスリやカツアゲはめんどくせーからしねえ。単車はたまに乗って。学校はたまにしか行ってない」
「よくこの高校受かったな」
「頭は良いですから。教師陣に楯突いていたワケでもないし。先生とはそれなりに仲良しだったよ。学校に来いとか、ケンカするなとかって怒られたけど」
先生と仲良しの頭の良いヤンキー…。
見た目からして、やはりこいつは鉄板イメージ通りのヤンキーではないのか。
「…そんなヤンキーが何でこんな進学校受けようと思ったんだよ」
「………」
…え、無言になった。
これは聞いちゃマズかったか?
話題を変えようかと考えていると、松嶋は「へへっ…」と苦笑いする。
「いやぁ…ちょっとした使命感を持って、結構意気込んでこの高校受験したんだけど…」
「使命感?」
「…でも、それは先代ミスターと狭山さんにまんまと解決されてしまった。俺が入学する前に」
「…は?先代?狭山?」
「でも、この高校に来てよかったと思ってるよ?すげえ楽しい。学校行事を楽しむのも悪くないね。ミスター制度とか狭山さんたちの存在がウケる。普通の男子も案外楽しいし、女子も可愛い。それに…」
ニヤッと笑いかけられて、指をさされる。
「…面白いヤツと出会ったしね?」
俺…か?
「俺のどこがそんなに面白いんだよ」
「えー?フツーこういうカンジの爽やか完璧イケメンって、優等生良い子ぶってるじゃん。なのに、ダンナは暴君っぽくてお口悪い。そんな綺麗な顔で口癖が『殺してやる』だよ?んなバカな」
「………」
んなバカなって…。
俺は昔からこんなんだけど。
何も言えなくなってしまった。
「まあ、俺様っぽいとこも女子からは人気なんだにゃ。こりゃ。柳川の優未なんてどハマりしてたでー?ずっと好き好き言ってたしなー?」
「………」
知らねえよ…。
それに、おまえが自らその名前を口にするとは…。
またしても、コメント出来ねえだろが。
「………」
すると、松嶋も無言で俺をじっと見ている。
お互い沈黙しちゃった。
「…ひょっとして、俺と優未がヤッてる姿、想像してるでしょ?」
なっ…!