王子様とブーランジェール



「ちょっと菜月!あのおんぶ動画、もう一回再生して!めっちゃ笑いたい!」

と、言いながらも、潤さんはすでに口元を押さえて「うくく…」と、笑いをこぼしていた。

「ちょっと潤さんまで!」

「まあまあ夏輝。済んだことだから、もう笑い飛ばすしかなくね?」

あのなぁ…。

「おんぶ動画見て、『竜堂もやはりヘタレだった…』でシメんのが一番良くね?」

良くねえよ!奈緒美!

「ヘタレじゃなくてチキンですよ」

と、理人がさりげなく呟いている。

理人…床拭きの件といい、後で殺すからな。

「竜堂くん、みんなには内緒にしとくからね?だから、もう一回見よ?」

まゆマネ、ぜひ内密にお願いします?

だけど、もう一回見なくても良くありませんか?え?

「竜堂、パネルホントにいらないのー?」

美梨也が俺の横で先ほどのおんぶパネルをちらつかせている。

「…だから!いらないって言ってるでしょうが!しつこいですよ!」

「まあ良い。だがな、竜堂?今後またあの色情魔・嵐とイチャこくことがあれぱ!今度はその様を、親父が衝動買いした3Dプリンターで立体パネルにしてやるわ!バカめ!」

「…うるせえな!もう金輪際ねえよこんなこと!」

あってたまるかよ、こんな情事!

狭山、おまえの親父はなぜ3Dプリンターを衝動買いした?

何の道楽?



「さあ皆さん、動画再生しますよ?」

「…おーい!ライオン丸!皿洗いしてないで、ライオン丸も一緒におんぶ動画見よー!」

「…え?何の動画ですか?」

奈緒美が向こうで片付けをしている桃李を呼び掛け、手招きをしている。

…え?な、何だって!

何呼んでんだ!

何も知らない桃李は、こっちにやってくる…!



桃李に…見られる!

それだけは、勘弁!



イライラと焦りがMAXに達してしまった。



「…おまえは来るなぁーっ!ボケェーっ!!」



そのイライラを吐き出すかのように、つい、いつもの調子で桃李に向けて怒鳴ってしまった。

桃李はピタリと立ち止まり、『え?え?』と挙動不審になっている。



絶対に…見られてはならない!

桃李にだけは!

何としても阻止だ!




「………」




俺の怒鳴り声で、辺りがシーンとしてしまった。

しかし、それもつかの間であり。

ここから一気に非難の嵐が…。



「『おまえは来るな』?『ボケェ!』?…っつーか、竜堂さんよぉ?おまえ、何でそんなに偉そうなの?」

奈緒美が、シラッとした目で俺を見ている。

しまった…。


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