王子様とブーランジェール
理人も何にこき使われているんだか…さっきから姿が見えない。
まあ、ブラブラしてるだけの野次馬だから、こき使ってやってくれ。
階段を降りて、正面玄関口に向かう。
外の空気でも吸おうかと思い、靴を履き替えた。
外に出ると、もう陽が沈んでいて、空気がだいぶひんやりしている。
もう、9月中旬だもんな?
暑がりの俺にとって、良い季節がやってきた。
あー。涼しい。
深呼吸のように、長く息を吐く。
正面玄関口周辺には誰もおらず、ガラーンとしていた。
しかし、一人でいると、ここぞとばかりに先程のことが頭の中でプレイバックする。
誰もいない教室に、ただ二人。
強く抱き締めて。
おでこにキスして。
しばらくギューッと…。
…な、何てことをしてしまったんだ!
桃李が…桃李が、俺の腕の中に、腕の中にいた。
すっぽりと両腕に収まっていた。
おでこにキスも…何であんなことをしたんだ?俺は!
考えれば考えるほど、頭の中はお祭りのように盛り上がっていく。
外は涼しいはずなのに、顔が熱い。
でも…桃李も顔を赤くしていて。
黙ってずっと、抱き締めさせてくれて。
嫌がってなかったよな…?
これ、意識してもらえたのだろうか。
勘違いして、本当に良いんだろうか?
いや、勘違いですか?
しかし、意識してもらえたのならば、そこがチャンスで。
攻め時なのかもしれない。
もう、これは…。
すると、国道の方向から、けたたましいエンジン音が耳についた。
一台ではない。複数だ。
バイク…?!
ヘッドライトがこっちの方向に照らされている。
そのエンジン音が、近くなってきた。
事の状況がわかってきたと同時に、そのヘッドライトは校門を通り抜けて、こっちにやってくる。
単車が二台、姿を現しては、正面玄関口付近に荒々しく停車する。
何だ…?!
二台のうち、一台は2人乗りであり。
計三人、全員ヘルメットを着用している。
けたたましいエンジン音の中で、2人乗りの後部座席のヤツが、俺を指差して、前にいる運転手に話し掛けていた。
すると、二台ともエンジンを切って、音が鳴らなくなり、辺りは静かになり始めた。
俺を指差していたヤツ、今度は俺に手を振っている。
「…おーい!そこのイケメン!」