王子様とブーランジェール
右手に鉄パイプを持ち、間に入り込んできた短髪の黒髪男は、感情が通ってないような冷たい瞳でこっちを睨み付けていた。
左耳のピアスが揺れている。
こいつ…やべえ目してんな。
で、場数踏んでる。
「………」
無言でこっちに歩いてきたと思ったら、またしても鉄パイプを振りかざしてきた。
「謹次、やめろ!そいつは…!」
しかし、鉄パイプを振り上げてがら空きになったその懐は見逃さない。
起き上がって右足で踏み込み、左足を振り上げてヤツの腹を狙った。
「わっ!…何やってんの!やめ!やーめー!やめろ!謹次!…夏輝!」
えっ…!
仲裁の声で、黒髪短髪男は振り上げていた鉄パイプを宙でピタッと止める。
俺も同時に足を止めてしまい、空を切って降ろしてしまった。
その声の主は、正面玄関口に立っている。
松嶋…後ろには藤ノ宮もいる。
二人とも、俺達のケンカの模様を見て泡食っている様子だ。
動きを止めた俺達のもとへと急いで駆け寄ってくる。
「慎吾…」
黒髪短髪男が、その名前を呟く。
「謹次!何やってんの!こいつは俺の友達!夏輝!」
「だって、こいつ厚雅を…」
「…え?…うぉーっ!あ、厚雅!何のびてんの!何があった!」
「おい、慎吾。おまえのダチ、えらく狂犬じゃねえか。目が合うなり厚雅の顔面狙って飛び膝蹴りだぞ?」
赤髪のチャラ男が苦い表情でやってくる。
「重徳!…っつーか、おまえら単車乗り付けて学校来んなよ!何やっちゃってんの!何で来たの!」
「えー。だって、行き方わかんねえんだもん。地下鉄乗り換える時点で無理だよな。な?謹次?」
黒髪短髪男は頷いている。
何だこいつら。
突然ケンカの仲裁に入り込んできた松嶋とフレンドリーに話してやがる。
このクソ不良ども、バヤセとやらの連中じゃなかったのか?
頭上にハテナマークを浮かばせていると、松嶋がため息をついて俺を見てくる。
「ちょっとちょっと。ダンナも何やっちゃってくれてんの…」
「はぁ?だってこいつら…」
「この三人は、俺の友達…。中学時代のヤンキー仲間」
「えっ…」
「まあ、単車乗り付けてきちゃったから、間違えるのも無理ないか…」
何だそれ。
だが、自分のやらかしたことにガッカリするのは間もなく。
殺す気十分で飛び掛かっていったもんだから、尚更。
ザ・早とちり。
やらかしてしまったというやつ…。
ガーン!!