王子様とブーランジェール
だが、その覚悟は。
ちょっと違う方向のものとなる。
「あ…み、皆さん。な、夏輝は偉そうかもしれませんが…」
あぁ、恐い。
ちょっと、ここから逃げ出したい。
「で、でも…夏輝は優しいですよ…?」
「………」
三度、辺りが一気に静まり返った。
い、今…なんて?
「夏輝は、私のケータイをすぐ見つけてくれるし、こぼしたジュースも一緒に拭いてくれるし…優しいですよ?」
え?
う、嘘…。
「それに、夏輝はしっかり者ですし、いつも正しいこと言ってるから…私がダメでドジなだけですし…はい」
(ま、マジで…)
その瞬間。
俺は言葉を失った。
頭が、真っ白になったのである。
違う意味で、覚悟が必要だった。
「…はぁ?ライオン丸、何で殿様かばってんの!別に言いたいこと言ったれ!」
「ひょっとして、ナツキくんがあまりにも殿様すぎて、ビビってるんじゃない?」
「ビビる必要ないよライオン丸!私達がバックについてるから、好き放題言いなよ!」
「あ、でも…ホントですし…」
「ライオン丸、洗脳されてるんじゃね?殿様に」
「いえ、これはホントですよ…」
桃李の意外な発言に、周りが騒いでいる中。
俺は…顔を伏せたまま、上げられずにいた。
「…夏輝、どうした」
「え?何?」
潤さんと理人だ。
顔を伏せたままの俺を不自然に思ったのか。
顔を覗きこんでくる。
俺の顔を見た途端、二人はほぼ同時に何とも言えない引きつった顔になった。
「な、夏輝、あんた…」
「顔、真っ赤…」
「み、見ないで…」
桃李の発言を耳にした途端。
一気に恥ずかしくなって、顔が熱くなってしまった。
心拍数が急に上昇。
頭の中も、一気にてっぺんまで熱くなり、なんだかプスプスいってる感じがする。
褒め言葉が、嬉しいを通り越してしまった。
『夏輝は優しいですよ?』
『しっかり者ですし、いつも正しいこと言ってるから』
ま、マジで!
サラッと言いやがった!
サイテー言われると思ってたのに。
不意討ちだよ、こんなの…。
不覚にも、ズキューン!ときてしまった。
まさか、桃李が俺のことをそんな風に思ってるとは思わなかった。
そんな風に言ってくれるとは、思わなかった。
照れ隠しだったり、きちんとしてないことへのイライラだったり。
そんな理由で、雷を落としてしまうことばかり。
思わずとってしまう態度で、実は後悔していることが多かったりして。
小うるさいとか、ビビられたりしてんのかな?なんて、正直思ってたりして。
…でも、桃李は、そういう風に言ってくれた。
純粋に、照れくさいのと。
小さいことでカリカリしてしまった、恥ずかしさを思い出してしまい。
顔、上げられない…。