王子様とブーランジェール
大将は、門脇部長だけでいい。
そう思いながら、この戦場を見渡す。
投網バズーカが連発されている音が先ほどから止まずに響いている。
おかげで、野球部のグラウンド、網だらけ…。
その網の下には、不良どもが横たわっている…。
「…今です!美梨也さん!」
「ほいっ!」
投網にて動けなくなった不良を、薙刀を振り上げて飛び掛かる美梨也。
「いいとこー!」
掛け声と共に、薙刀の先は不良の下腿を狙う。
バシッと音が鳴り、不良は「いでっ!」と悲鳴を上げて座り込んだ。
そこをまたしても女子たちが寄って集ってバコバコと袋叩きにしていた。
このスタイルって、どうなの…。
その近くには、木刀を両手で握って構える藤ノ宮の姿があった。
相手の拳を木刀で振り払い、あっという間に面に持ち込んでいる。
面をくらった相手はやられた顔を抱えるが、その隙に木刀は腹にも炸裂しており、そのまま倒れ込んでしまった。
藤ノ宮もなかなかの腕前だ。男を倒すとは。
少し離れたところでは、松嶋の友達三人が、大勢の緑ブレザーを相手にしている。
よく見ると、その中には奈緒美や潤さんも加わっていた。
「奈緒美姐さん、今の蹴りでパンツ見えそうだったあぁぁ!足キレイだぁぁ!」
「…うるっさいわねそこの金パ!さっきからパンツパンツうるさいんだよ!」
奈緒美とパンツ星人・厚雅。
お互い、それぞれ敵を相手にしながらもモメている。
余裕あんじゃね?
全体的に見回すと、倒れたまま動かない奴らが増えてきた。
破竹の勢いの作戦と猛者のおかげで、こちらが優勢になってきていると思われる。
しかし。
マシュー総長や幹部の姿は、まだ見えない。
あのなりきりもどきと昔風ヤンキー。
来てない?…ワケないよな?
松嶋に言われた通り、さっきからその姿を目を凝らして探してはいるのだが。
この戦場にはまだ現れていない。
…と、その時。
ポケットに入れていたスマホのバイブが鳴る。
(…理人?)
着信の画面を確認して、通話を始める。
「どうした?」
『殿。いました』
いつもの通り、フザけてる…。
「殿はやめろ!」
『ホント。いたよ。正面玄関口。早く来い』
伝えることを伝えて、一方的に通話は終わる。
いた…?
ま、まさか!
「狭山、松嶋!」
俺が呼ぶと、二人は同時にこっちを見る。
用件がわかったらしく、すぐにこっちにやってくる。
「理人があいつらを発見した。行くぞ」