王子様とブーランジェール
マシュー総長の行動に、一人で勝手にツボに入り、一人で勝手に笑いを堪える。
躍起になっているその全てが笑えるわ。
しかし、状況が少し変わってくる。
「…このっ!」
途端にバン!と音が響いた。
あまりにも音が大きく、突然だったのでビクッとさせられる。
そして、その音は止まず。次々と規則的に発する。
「何で鍵が開いてねえんだよ!…瞳!」
マシュー総長が、玄関のガラスドアをドカドカと蹴っている。
「瞳!」と、姫の名前を叫びながら。
「バカですね…」
「いないのにね…」
菊地さんとまゆマネがこそこそと話している。
確かに。思い込みって恐いな。
そのうち、マシュー総長は傍にいる幹部の一人から「貸せ!」と、鉄パイプを取り上げてしまった。
マシュー総長が鉄パイプを手にしてしまった。
おいおい。まさか。
それで玄関のドアをぶち破る気か?!
先程、そこのガラスには全て防弾フィルムを貼っていたが、鉄パイプで玄関のドアをぶち破られるのは、あまり良い気がしない。
器物損壊だぞ?
「…竜堂、行くぞ」
狭山に軽く背中を叩かれる。
そして、俺より一歩先に身を進めて、奴らの前に姿を現した。
「…おまえらあぁぁっ!そのガラスを割ってみろ!おまえらの腎臓を売った金で弁償させるぞコラァ!」
そう怒鳴り散らしながら、金属バットを奴らの方向に突き付け登場する狭山。
マシュー総長の鉄パイプを持つ手は止まり、連中は全員こっちに注目する。
「…だ、誰だこの女っ…あっ!」
「お、おまえぇぇっ!」
狭山の後に続いて登場すると、全員が全員、俺を見て固まる。
あいつらにとっても、会いたかっただろ?
…俺に。
「り、竜堂!」
「とうとう出てきやがったな?コラァ!」
俺の姿を見て、ギャーギャーとわめき始めた。
狭山風に言えば、三流愚連隊ども。
愚連隊…いつの言葉だ。
おじいちゃんと話をするか、テレビの懐かし映画特集でも見ないと耳にしない言葉だぞ。
「おまえぇぇっ!よくもナメた真似してくれたな?コラアァァッ!」
「仲間と姫を拉致りやがってえぇぇっ!タダで許されると思うなよてめええぇっ!!」
「おまえらが出てこいや!っつーから、出て来てやったぞコラアァァッ!」
「イケメンだからって調子に乗ってんじゃねえぞクソがあぁぁっ!!」