王子様とブーランジェール
「…夏輝ってこういうキャラだったっけ?ピュアすぎやしない?」
「いいえ。彼女限定です。今きっと思いもよらない言葉をかけられて感動しすぎている様子だと思いますが…」
潤さんと理人が俺に背を向けてコソコソと話している…。
全部聞こえてるぞ…。
あぁ、そうだよ。
不意討ちで感動しすぎている次第ですよ…。
『夏輝は優しいですよ?』
『しっかり者ですし、いつも正しいこと言ってるから』
…あぁぁっ!またリピートした!
ダメだダメだダメだ。
この体勢から動けなくなるぞ!
熱くなった顔をペチペチと叩いて、深呼吸する。
あー。少し落ち着いた。
めっちゃ顔から火が噴いたぞ。
やっとの思いで顔を上げる。
桃李は引き続き奈緒美たちに囲まれて、『殿様を許すな!』だとか『洗脳を解いてやる!』と、肩を揺すられている。
しかし、狭山は椅子に座ったまま、腕を組んでその様子を見ていた。
…と、いうよか、じっと何かを凝視しているようだ。
何を見ているのか。
「…おい、神田」
狭山は口を開く。
凝視の先は、桃李だったようだ。
「は、はい」
少し、沈黙があった。
辺りは急に静まり返る。
「おまえ、眼鏡外してみろ」
それは、俺の最も恐れていたことでもあった。
「なっ…何言ってるんですか!」
頭で考える前に、思わず口に出してしまった。
感情任せに立ち上がったぐらいにしといて。
「…は?」
狭山は眉間にシワを寄せる。
言われたことの理解できないといった様子だ。
「何って、ただ『眼鏡はずしてみろ』っつっただけだぞ?私は」
「え、いや、それは…」
思わず口にしたセリフの続きを用意しておらず、言葉に詰まってしまう。
すると、狭山はますます疑惑の目を俺に向けた。
「眼鏡を外したら何かあるのか?」
「あ、あ、あるもなんも!こいつ、超ど近眼で、眼鏡はずしたら何も見えなくなって…近くにあるモノ壊したりするんで!まるでゴジラみてえに…」
「はぁ?」
「とりあえず!こいつ、眼鏡はずしたらかなり危険なんです!皿の5枚や6枚平気で割りますし、掲示板にぶつかって掲示物が全部剥がれて破れたなんてこともありましたし…」
これは、ホントのことだ。
中学の時の話。
「…だったら、そこから一歩も動かないで眼鏡をはずせば良いではないか」
「いや!そしたら、平衡感覚がなくなって転倒して器物損壊大いにあり得るんですって!だから、ダメですって!」
桃李の眼鏡を外すことにムキになって阻止する俺に。
周りの連中の頭上にははてなマークが浮かんでいる。
他人の俺がムキになるのは不自然だというのは無理もないか…。
すると、桃李が苦笑いをする。
「あ…夏輝の言うとおり、本当なんです…周り見えなくなって、気付いたらいろんなモノ壊したり、ケガしちゃったりするんで…親にも眼鏡は外さないようにって言われてて…」
自分で話しておきながら、『はぁぁ…』と、一人で落ち込んでいる。