王子様とブーランジェール
「え?お姫様抱っこ?わー。やらしー」
「うるせー。ドア開けろ」
…だけど、桃李、ちょっと触れただけでも柔らかいな。
ギュッとしてしまいたい。
さっきみたいに…。
抱きしめたいけど、抱き締めるタイミングじゃねえな。
理人いるし…ちっ。
照れ隠しに、思わず寝てる桃李のデコをピンと指で弾いてしまう。
「…ふがっ!」
デコピンの衝撃で、全身が大きく揺れた。
うっすらと目を開けてボーッとしている。
しかし、みるみるうちに、目が大きく見開いた。
「…ひいぃぃっ!!」
目の前にいる俺と目が合った途端、汚い悲鳴をあげた。
同時に、後退りして俺から離れ、玄関のドアの前まで逃げている。
えっ…何で逃げんの?
「ご、ご、ご、ごめんなさいぃっ!夜一人で出るなって言われてるのに出てごめんなさいぃっ!寝ててごめんなさいぃっ!」
あわあわとして、顔が真っ赤になっている。
息が荒くなっている。
そんなに驚いたの…?
逃げられて、グサッときた。
「あ、そう…」
ポカーンとしていると、桃李はなぜかスーハースーハーと深呼吸していた。
そこまで驚いたのか。
そして、落ち着いたところで、こっちをチラッと見ている。
そして、挙動不審気味にモジモジしている。
どうした。
「あ、あ、あ、明日…8時…」
「ん?」
「は、は、は、8時出発です…お父さん…」
「あ…」
すると、速攻で玄関のドアを開けて中へ入っていってしまった。
バンッ!とドアが桁たましく閉まる音が響く。
あ…。
それから。
しばらく待ってみたが。
桃李が、そこから姿を現すことはなかった。
え。もう寝た…?
突然すぎない?
「いったい何なんだあいつは…」
「とりあえず、明日8時ね」
「あ、あぁ…」
そこで、理人とも解散した。
え。何?
お姫様抱っこしようとしてたこととか。
抱きしめたいとか思ってたの、バレた?
やらしい男!みたいな?
いやいや。桃李がそんな人の心読めるワケがない。
自分のことすら読めないヤツが。
キュンとしたのに。
汚い悲鳴あげられて、逃げられて。
ショックとしか言い様ないんですけど…。
俺を待ってたんじゃないの?
8時出発です言うためだけに待ってたのか?!
もうGO!だと思ったのに。
道のりまだまだ険しかった…。