王子様とブーランジェール
…そして、その8時間後。
いつも通り朝起きて、パンダフルに集合し。
おじさんの営業の車に乗せてもらう。
後部座席には、俺と理人が座って。
助手席には桃李が座っている。
「…え?桃李のクラスの男の子、レギュラーなの?一年生なのに?!」
「そうなの。横川くん、キャッチャーなんだよ」
「え?え?正捕手なの?一年生なのに?」
おじさん、陣太の話を聞くと、運転しながらも驚いている。
天パに眼鏡のおじさん。ホント、桃李のお父さん!っていうぐらい天パに眼鏡だ。
おじさんは野球好き。
野球やってたことあるんだって。
地元のプロ野球チームのハイターズのファンで、毎日ナイターを見てる。
民放で放送してなかったら、ケーブルテレビを契約している川越酒店に走り、商店街仲間と飲みながらテレビ観戦するぐらい。
北海道の高校野球も、多少知ってるらしいが。
「…え?お友達、南豊ボーイズのキャプテンだったの?!北海道の名門強豪チームでしょ!何で公立高校に!」
「え、わ、わかんない」
「お、お父さん…試合見たいな?営業終わったら円山行こうかな…」
おじさんには球場の前で降ろしてもらう。
丁寧に挨拶をしてお見送りするが、おじさんすごい試合見たがっていた。
後で来そうだ。
「結構人いるねー」
行き交う人、高校の制服を着た生徒、たまにおじさんばかり。
一応、ブロック決勝だし、対戦相手は名門校の札幌西海大だし。
注目の一戦、らしい。
でも、注目だか何だか知らんが、陣太が出てなかったら来なかったと思う。
我らがキャプテンの十津川さんと、野球部エースの汐見という人が仲良しで。
験担ぎのようなもので、すでに道大会出場を決めているサッカー部に応援に来て欲しかったらしい。
そういうワケで、キャプテン命令で応援強制参加となった。
「どっち行けばいいの」
「三塁側だから、あっちじゃね?」
理人と入り口を探しながら、歩く。
「ま、待って待って」
桃李がちょこちょこと後ろから着いてくる。
「桃李、何持ってんの」
「あ、こ、これメガホン。りみちゃんと100均で買った…」
「ピンク?それにハート形?こんなの売ってんだ」
すると、そこへ「和田ー!」と、理人を呼ぶ声が聞こえる。
男バスの奴らだ。
理人な手を振りながら、のらりくらりと声の方へと歩き、俺達から離れていった。