王子様とブーランジェール
すると、俺の横で理人はため息をつく。
「…え?夏輝本人に言えるワケないでしょうが。『ねぇー!夏輝ー!あのね、夏輝のファンに彼女気取るなって言われて指を踏みつけられたー!』って?…ましてや桃李が」
そのセリフは胸にグサッとくる。
…いや、そんな言い方されたらドン引きだけど。
俺本人に、言えるワケがない?
『助けて』って…言えるワケがないってこと?
「頼りに、ならないってか…?んだとコラァ!」
反論する俺に対して、またしても理人はため息をついている。
「…そういう意味じゃないし、誰もそんなこと言ってないだろ。ふざけるな空気読め。おまえバカ?天然?」
「天然…何っ!」
「頼りになるならないじゃなくて。夏輝が直接原因なのに、助けを求めるなんて出来るか。桃李はそこまでバカじゃない」
はっきりと言い切られて、言葉を返せない。
イラッときた。
桃李はバカじゃない?
いや、普段はバカでしょ。
すると、何かを言いたげにこっちを睨んでいるこの女も口を開く。
「私は…竜堂には言わないで、って、桃李に言われた…」
え…。
俺に…言うなって?
「それは俺も言われた」
「…はっ?!」
理人にまで、口止め?!
何で…!
さっきから『なぜ』と『何で』ばかりだ。
「『夏輝に知られたくない』『迷惑かけたくない』ってさ。…でも、俺は反対した。夏輝が原因で桃李はやられてるんだし、夏輝はこういうのを隠されたくない性格だろうし、夏輝の責任でもあることだから、夏輝には俺から言うって言ったんだ。だから、今言った」
理人、さすが長い付き合いだけあって、俺のことよくわかってるじゃねえか。
「でも、そう言ったら『理人のバカ!』って言って、走って逃げちゃった。よろよろだったけど」
(ちっ…)
心外だ。
じゃなくて、実はショックがかなり大きい。
イライラしながらも…実は、落胆している。
…普通の人なら、言えないかもしれないけど。
言いづらいことかもしれないけど。
でも、桃李には…言ってほしかった。
早く、知りたかった。
苦しんでるって、知りたかった。
頼ってほしかった。
桃李のことは、何よりも早く助けたかった。
『助けて』って、言ってほしかった。
(………)
…だが、ここで。
ふと、疑問が生じた。
それを迷わず口にする。
「狭山と菜月は…何で知ってんだ?」